toshimichanの日記

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あゆみん 1

もう数年前の話しです。

会社の用事で、会社近くの銀行に

行った時の事。

窓口で手続きをして貰って居る間の

待ち時間に、3~4人掛けの椅子に

座っていると、

一人分を空けない程度の間隔に

一人の、いかにも場末の飲み屋に

居そうなおばさんが腰掛けたのだった。

俺は、特に気に掛ける事もなく、

床に視線を落としていたのだが、

なんとなく俺の顔をチラリと

小首を傾げる程度に確認された様な

気がした。

あれ?俺の顔に何か変な物でも

付いてるのかな?

お昼に食べたナポリタンのケチャップ

でも、口の周りに着いちゃてるかな?

とか、思考を巡らせていた。

それにしても、

大して混んではいない店内で

座れる椅子は他にも沢山空いている

のに、何故わざわざ俺の隣に、

しかも、少し接近気味に座ったんだ。

ん?もしかして知り合いなのかな?

と思って、壁のポスターを眺める振り

をしてチラリと顔を確認したのだが、

全く見覚えがなかった。

多分、俺よりは10歳以上は年上で、

分厚い化粧に隠された肌はガサガサで

土木作業員の様に荒れていた。

頭髪は白髪混じりで、パサパサ。

地方の寂れた温泉街にある、

店内がやたらに暗い、

場末のバーなんかに居るおばさんの

イメージにぴったりの雰囲気。

 


隣になんか座りやがって、

なんかやだな。

と、思っていたら、

窓口から呼ばれたらしかった。

がしかし、ちょっと、そのおばさんに

気を取られていて、立ち上がる

タイミングがずれてしまい、

有ろう事か、フルネームで俺の目を

見て窓口のお姉さんが

呼んだのだった。

 


その瞬間だった。

「あっ、やっぱり」

その、妖怪じみたおばさんが呟いた。

えっ?

一瞬、おばさんを一瞥して、

俺は窓口に向かい、手続きを済ませた。

 


書類をバッグにしまう為に、

別の椅子に座ると、そのおばさんが

近寄って来て、わざわざまた、

今度は直ぐ隣に座るではないか!

 


「久しぶり、元気だった?」

(あっ、久しぶりですね)

全く知らないぞ。

「私、分かる?」

(ああー、久しぶりだから気が

付かなかった)

頭の中はフル回転していた。

(何年振りですかね?)

誰だ、誰なんだ、顔をしっかりと

見詰めて、記憶を辿る。

「あれ?解らないんでしょ!」

ん、ん、あれ、

パニックに陥ってた。

似ている。

何処か若干、似ている気がする。

が、しかし。

「酷いな、解らないって顔してるよ」

確かに、この声に聞き覚えがあった。

「ねぇ、みさと。」

ええええーーーっ!

ガラガラと、いや、

ドッカン、ドッカンと爆裂音と共に

ぶっ壊されて行く、

淡くて儚い、遠い想い出。

その呼び方、その声。

 


工業高校なので男子校。

厳つい、勉強の出来ない

はぐれ者達だけが寄せ集められた

無骨な集団。

当然、彼女持ち等は余り居なくて

彼女が居るなんて奇跡に近かったし、

皆から羨望の眼差しや

やっかみや、軽いイジメ、嫌み、

嫉み等を受けつつ

付き合っていた。

清純でキラキラした笑顔。

真っ白で輝いてた素肌。

真っ黒で艶々の黒髪。

柔らかくて、大きくて、

垂れてないおっぱい。

見事にくびれたウエスト。

何よりも、

激しく、欲望の命ずるままに

暴力的に犯し続けた体。

青春の多感な一ページを共に過ごした

あの、あの、あの、

あゆみん。

 


可愛いかった。

誰に見せても自慢出来た。

俺の彼女。

 


ええええーーーっ

 


面影が、、、、、

無くはないのかな?

てか、

の、お母さんでも通用する。

 


ショックが表情に出てしまってた。

「何よ、その顔は、酷くない」

あの頃の気安さで語り掛けてくる。

この心地よい声の響きが、悲しかった。

 


銀行を出て、近くの喫茶店に舞台を

移した。

向かい合って、真正面に居るおばさん。

おばさんにしか見えないその風貌。

涙が出そうになった。

詰まり、目の前に座ってるおばさんを

あゆみんとして心が認めたのだった。

 


(老けたよね。)

認めた気軽さで、つい本心が

出てしまった。

次の瞬間に右手の手の平が飛んで来た。

静なか喫茶店の中、軽い修羅場の様な

雰囲気が漂う。

 


聞けば、大病を患い、生死をさ迷った

事があったそうだ。

生きて居るだけでラッキーな経験者。

結婚はしたモノの、外れくじを引いて

今は独身でフリー。

 


話しをしていると、頭の中は走馬灯の

様に、当時の記憶が甦り、

目の前のおばさんがあゆみんなんだと

ハッキリと自覚する様になって来る。

「ねぇ、ねぇ、今日これから

     時間ある?」

病院のベッドで病と闘って居る時に

脳裏を霞めたのは俺の姿だったと

語り、この再会は何かの縁だと

力説する。

元気になれたら、俺に連絡を取って、

労って貰おうと思っていたらしい。

そんな決心も着かずに数年が過ぎ、

今日が訪れた。

千載一遇のチャンス。

 


もう、数十年が経っている。

あゆみんが、例え大病でこの世を

去っていたとしても、

その時の俺は、全くの普通の暮らしを

していて、なんら変わらず生きていた

筈。

連絡を取っていた分けでもなく、

消息も解らない、他人になっていた筈。

あゆみんの生死には関わり等ない他人。

それが、「別れる」と言う事。

 


それでも再会を果たしてしまった。

その変わり果てた姿で、

俺には、今のあゆみんを抱く自信が

なかった。

 


「お願いだから、冥土の土産に」

いかにも年寄りが言いそうな台詞を

両手を握られて言われた。

その温もりは、遥か昔に繋いでた

手の感触の筈だった。

(あの頃の様には行かないのは、

   分かってるよね?)

俺はネクタイを緩めて返事を返した。

 


痛々しい手術跡が生々しく残った体。

意外にも体の肌は顔からは想像

出来ない位に綺麗だった。

とは言え、やはり数十年の年月は

当時の体からは程遠く掛け離れた

裸体だった。

おっぱいもおまんこも年月を重ねて

大人を通り越していた。

ぎゅーっと抱き締めると、

「ああ、この感触を体が覚えてるよ

みさとが一番沢山、この体を愛して

くれたんだ。

みさとだけが、本気で愛してくれた。

凄い、凄い。

中にしてね、本気で中に出してね。」

 


経験人数は俺以外は、

外れの元夫とだけで、その元夫とも

数えられる位しかしなかったそうだ。

詰まり、この俺が彼女を一番に愛して

いた男なんだと語ってくれた。

 


高校時代に愛してた女の

その後の人生に、こんな俺が

それほどまでに影響していたなんて

それまでに考えた事などなかった。

幸せになっているだろう。と、

勝手に自己完結して、

遠く、淡く、儚い青春の想い出に

しかなってなくて、

現実世界で、今でも元気に暮らして

居るのだろう。としか考えて居ない

浅はかさを思い知らされた。