toshimichanの日記

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あゆみん 2

「ねぇ、良かったらで良いんだけどね、

本当に、嫌だったら断っていいんだから

ね、こんなになっちゃった女になんか、

なんの価値もないのは解ってるから」

卑下にしか聞こえなかった言い訳に、

妙に腹が立った。

昔とは言え、自分の彼女だった女が、

誰にでも自慢出来た彼女だった女が

今では、価値のない女なんだと、

昔の彼氏に向かって、なんの臆面もなく

言い放っている。

それを聞いて一瞬でも納得した自分が

居て、心底自分に嫌気が差したのだった。

 


連絡先を交換してラブホを出た。

 


高校は電車通学で毎朝、横浜駅から

私鉄の特急に乗り通っていた。

彼女はその通学途中の駅にある高校に

通っていて、頻繁に同じ車両に乗って

いた女子高生だった。

2年の夏のある日、

学校帰りに駅の改札口に向かって行く

高架下の真っ直ぐな道を歩いて居ると、

如何にも待ち伏せをしている感じの

女子高生が、その道を見張っているのが

見えていた。

かなり前に一人、俺の少し後ろに一人

位が歩いていて、明らかに前の奴は見て

いないのは分かったが、どうもこちらに

視線が向けられている様な気がしてた。

 


彼女の横を通り過ぎる直前に、

「あの、ごめんなさい、少し待って

貰って良いですか?」

これが彼女との出逢いだった。

制服の肘を引かれながら改札口から

離れた柱の陰に連れて行かれた。

(なんだよ、おい、痴漢じゃないん

だから連行するなよ)

心臓がバクバクいってた。

彼女は顔を真っ赤にしながら

「あの、ごめんなさい。」

(なにを謝ってるんだ、こいつは、

そう言えば、こいつ、見覚えがある。

朝の電車に居るやつだ。

そうだ、こいつだ。)

「朝の電車の中で一緒になる事が良く

あるので、私、見覚えありますか?」

(あっ、うん、なんとなくね)

ニコニコっと不自然な笑顔になる彼女。

「私、○○高校の2年で○○あゆみ

って言います。」

声がかすれて聞き取り辛かった。

(はぁ?)

「いきなりで、ごめんなさい。

名前を教えて貰っても良いですか?」

(あっ、えっ?なんの為に、名前を

教えなきゃならないの?

目的が分からないし、それになんなの?

あなたは横浜から○○駅で降りてる

○○高校だよね?

こっち方向じゃないのに、どうして

この駅前にいるの?)

「あっ、ごめんなさい。

じゃあ、私、帰ります。」

(えっ、なに?なんか用事があって、

わざわざここまで来たんじゃないの?)

「あっ、大丈夫です。ごめんなさい。」

(なに、さっきからごめんなさいばっかり

で、話しが進んでないじゃん、

なんか文句とか、言いたい事があって

ここまで来たんじゃないの?

聞くだけなら聞くよ。)

ポケットに両手を突っ込んで、少し

イライラしていた。

彼女は小さく手を振るのと一緒に、

三つ編みにしたツインテール

ヒュンヒュンと振り回すように首を

振っていた。

(あん、○○みさと。だからなに?)

首を振るのを止めて、一瞬に笑顔に

なった。

「あの、○○って、どうゆう字を

書くんですか?

みさとはどう書くんですか?」

カバンからメモ帳と分厚い封筒を

取り出して、メモ帳とペンを渡された。

(えっ、書くの?

てか、なんで俺の名前調べてるのさ、

分けが解らないんだけど、なに)

すると、彼女は持っていた分厚い封筒を

差し出して、

「ごめんなさい、読んで下さい。

あと、名前を書いて下さい。」

メモ帳に名前を書き終わると、

そのメモ帳を引ったくるように

掴んで、そのまま逆の改札口の方へと

逃げる様に走り去って行った。

(あれ?何処に行くんだろう、横浜駅

に帰るんじゃないんだ)

渡された分厚い封筒を片手に、

ちょっとの間、立ち空くんでいた。

もしかしたら、ラブレターかな?

とも思ったが、極普通の白い封筒が

モッコリと膨らむ位に何かが

詰め込まれいて、見るからにラブレター

ではなかった。

電車に乗る為に改札口を通ると、

4人組の女子高生が反対側の改札口から

入って来た。

そいつらは、朝の電車で見掛ける例の

連中で、その中にはしっかりと彼女も

一緒にいたのは言うまでもない。

彼女達は慌てて階段を登って行った。

成り行き上、仕方なく俺は反対側の

階段を登り、電車の前と後ろに離れる

様に帰ったのだった。