toshimichanの日記

ブログの保管所

性欲の破壊力

唇が指の根元をふんわりと
包み込んでいる。
指に絡み付く柔らかくて
温かい舌先が、
丹念に密着して来る。
上目遣いの瞳が
真っ直ぐに俺を見詰めて
表情を伺っている。

いきなりの暑さに見舞われ、
分けの分からないウィルスの
蔓延している中を、
久し振りに会社帰りに寄ってみた。
兎に角手洗いとうがいをして、
ネクタイを外し始めた時だった。

洗ったばかりの手とはいえ、
口に入れられる程に丹念に
洗ったのかの
保証はできなかった。

白くて細い、
良く手入れがされている
綺麗な指先に捕らえられた俺の
手の平は、
床に膝ま付いた彼女の真っ赤な
唇に吸い込まれて行った。

人差し指全体をすっぽりと
赤い唇が包み込み、
指全体に舌の腹が
当てられて丹念に蠢いている。

捕らえていた手が離れ、
彼女の両手が
スラックスのベルトに掛かる。

朝からの晴天は気温を跳ね上げ
湿度の高い蒸れた空気は
俺の体を蝕んで、
今日一日中は汗をかき続けていた。
特にその部分は、
別に手入れをする事なく、
扇風機の風さえ
当てずに無防備に蒸れていた
筈だった。

手はハンドソープを使って
洗ったのだから、
まだ清潔だと言えよう。
しかし、
そこは何一つ手入れなどしていない。
恐らくは、
俺の体の中では一番
蒸れている場所なはずだった。

手馴れた手順でテキパキと
スラックスが下ろされ、
トランクスもなんの抵抗もせずに
あっさりと膝の下へと落とされた。

解放された俺の手の平は、
真っ赤な血の跡の様な痕跡を
残して解放されていた。

見下ろせば、綺麗に巻かれた
前髪越しに見える彼女の瞳が
ギラギラとした熱を帯びて
突き刺さる。

顎が俺の臍に押し付けられ、
見上げる表情がとろけていた。

まだ心の準備もされないままに
含まれた
小さく柔らかい俺の心は
彼女の容赦ない暴力に晒され、
何の抵抗も出来ずに
ぐちゃぐちゃに弄ばれる。

いつしか俺は、洗面台の前に
倒されて、彼女の舌の暴力を
真っ向から受け止めていた。


一分一秒も待ちきれなかったの。

そう言った彼女の、
綺麗に整えられていた髪型は
見る影もなくすっかりと乱れ、
丹念に施していた化粧は
見るも無惨に化け物と変化して
いた。

なんでそんなに気合いを入れて
飾ってたんだよ。

だって、貴方の前では
常に綺麗な女でいたいのよ。

今の自分がどんなだか見てみなよ。

良いのよ。
今は心が少しは
満たされてるから良いの。

どんな論理だよ、それ。
だってひっでぇー姿してるぞ。

なによ、こんな女にしちゃったのは
貴方なんだからね。
どれだけ辛い思いをして
待っていたと思ってるのよ。
これから全部の責任を
取って貰うんだからね。

俺はこの部屋を訪れる時には、
シャワーを浴びる事を禁じられて
いた。






匂いフェチ。
彼女は俺の汗臭い体臭に安らぎを
感じるらしいのだった。
なので、
この真夏のクソ暑い季節は、
と言うよりも、
季節には関係なく、
俺は彼女の気持ちが修まるまでは、
いつもシャワーを
浴びる事を嫌がるのだ。

なので、彼女に会う日には俺は、
制汗デオドラント系の匂い消しを
使うのをわざわざ彼女の為に
控えていた。

特にこの真夏の季節などは、
部屋に入った途端に駆け寄って来て、
挨拶も何もなしでいきなり
ワイシャツのボタンを器用に
素早く外して、
びっしょりになった下着の中に
頭を突っ込んで
フニャッフニャッと
分けの分からない擬音を発しながら
深呼吸を繰り返したり、
胸板を舐め回したりして、
勝手に発情し始めるのだ。

会えなかった日々、
と言うよりも、
彼女に言わせれば、
会って貰えなかった。
避けられていた日々に募らせた
思いの塊は、
一回や二回の、
一時間や二時間の
触れ合いくらいでは、
外郭の一皮が剥けるだけで、
核心の不満を溶かすには、
重なり触れ合うだけでは彼女の
性欲はビクともしやしない。


私だけの彼ではない。
私だけが愛されている分けでは
ないと言う思いは、
彼女に特殊な独占欲を
沸き立たせてしまったらしい。

私にしか成し得ない特別な
性的趣向性。
それが、彼女自身の、
俺に会えない期間の淋しさを
紛らわし、
尚且つ俺の気持ちを
心配と言う形で少しでも自分に
向けて貰える手段だった。

それを俺が与える事によって、
彼女自身の性欲も満たされ
彼女の心の奥底に蠢くおぞましい
本性を俺に曝す事で、
女としての優越感に浸れる。

そんな考えが、彼女の支えに
なっていたのだった。

捨て身の繋ぎ止め。
とでも言うのだろうか、
それともそれは、
俺の彼女に対する気持ちの
バロメーターにでも
成っているとでも
思っているのだろうか?
愛しているのなら、
私の望んでいる場所まで
連れて行って欲しいと
懇願する様は、
投げ出された一人の女の魂を
託され、
鷲掴みにして
眺めている様なものだった。


屍の様にぐったりとした彼女を
抱き締めて揺り起こし、
朦朧とした意識下で犯すかの様に
思いを遂げる。
それが、
私と言う女の一番気持ちの良い
抱き方なのよ。
それが、
私のえも言われぬ快感なの。

彼女に取って普通のセックスは、
性欲処理の方法ではなく、
始まりにしか過ぎないのだ。
そこから、
俺は彼女の貯め込んで
硬く固められたお腹の芯にある
塊を、
少しずつ削り落として
上げなければならないのだった。