その涙の訳を俺は聞けない。
聞いてはいけない、
もしも、聞かされたら
俺は、ここには居られなくなる。
１０分後の俺は、
君の肩を抱いて隣に座って
慰めているんだろうか。
だって先に君が言い出したんだ
昨日の出来事
食事の仕方が汚いってさ、
やる事なす事ががさつだってさ、
だから俺だって
気遣いが足りないって
優しくないって
どうしてここまで
付き合っていたんだろうね
何処が好きだったんだろうね
５年もの間に
何故気付かなかったのかな
二人して
言いたい事を言い合って
何度も何度も喧嘩は
繰り返して来たよね。
次の日には、
まったくもうで
特に仲直りする事なく
普通だったんだよね
今までは
なのに今日の君は
どうしてなんだ
わざわざ俺を呼び出して
まったくもうは
言わないんだね
いつもの様に
映画の時間を検索して
どこで何を食べてから
何時に何処へ向かうのか
身勝手に俺を連れ回さないのか
常に右にいて
声の聞こえる距離にいて
人混み以外では
手は繋がなかったけど
当たり前に側にいた
そんな予感は
してたんだけど
どうしてなんて
聞けなかった
そんな理由は今までに
何度も何度も聞かされてたし
言い合いをして来たから
それだから今日も
まったくもうで
今日が始まるんだなんて
おれの身勝手な思い込み
この場から動けない
謝る言葉が探せない
頭を小突いてまったくもうを
言ってくれない
こんなに小さかったかな
君の肩は
こんなに白かったかな
君の首筋
こんなに苦しかったかな
聞けない事が
こんなに怖いんだな
聞かない事が
こんなにも切ないんだな
どうして？の一言が
言い出せないなんて
見慣れている涙は
いつもその場限りで
謝って泣き止んで謝って
小突かれて謝って
抱き締めてキスをして
ねだられて拗ねられて
笑顔だった５年間
そんな事の繰り返し
当たり前の日常は
繰り返すから日常なんだ
どうして今日はと
言い出せない
なんで今日はと
聞けやしない
いつもと違う朝の始まりに
小さく見える君の
震える肩
どうしてこんな時に
思い出すのだろう
始めて出会った時の君の姿
縁起でもない回想なんて
これで終わりなのかな？
ここが終着点なのかな？
明日の朝、
俺はここに居るのかな？
一年後、
もう違う人と喧嘩も
せずに仲良くしているのかな？
幸せになっててくれたらいいな。
だからもう聞かないよ。
だからもう聞けないよ。
その肩も抱かないよ。
今までの５年間が
こんな１０分間の
無言のさよなら。
