べた凪の海面に
ポッカリと浮かび上がった半月が
道筋を示す様に一筋の光の航路を
照らし出している。
櫂を持つ俺の手は
止まったままで
舳先を航路には向け様とはしない。
漕ぐ力はまだ衰えてはいない筈なのに。
風のない海面は
波紋さえも起こせそうなくらいに
余りにも平たく穏やかで
そのまま海面の上を歩いて行けそうな
錯覚さえ覚え、
不気味な静けさを称えている。
明るい月明かりが、
どれだけ辺りを照らそうとも
何もない海面には
ただひたすら何もなかった。
漕ぐ事を止めたサバニは
流れる事もなく漂い
その場で息を潜めて
海水は冷たく
そこに浮かぶ小舟さえも
孤独感に閉じ込めてしまう。