toshimichanの日記

ブログの保管所

銀杏並木

246の青山通りから、神宮絵画館に至るまでの銀杏並木は、
新緑が芽吹く初春の頃には、
若々しく穢れのない淡い新緑を、その大樹の枝々に讃え、木々の逞しい生命力と移ろう季節の息吹きを感じさせてくれる。

寝静まる事のない都内のど真ん中で、やっと僅かばかりの静寂が訪れる真夜中に、煌々と光る水銀灯に照らされた銀杏の若葉は、この時と言わんばかりに新緑の輝きを遊歩道を歩く真夜中の散策者に惜しみ無く降り注ぐんだ。


「この時期は、この場所が一番綺麗だよね。」

化粧っ気のない風呂上がりのままの素っぴんで大樹を見上げている彼女に、水銀灯の木洩れ日が降り注いでいた。

「確かに、高いビルの、高級なレストランからきらびやかな夜景を見下ろしながら、格好良く都会的に、とでも思ったんだけど、
自然の息吹きを目の当たりにしている方が心は穏やかになるよね。」


俺に向き直った彼女が強く固く俺の手を握り締めて、

「ここを選んでくれてありがとう。」





溢れ出る涙を拭おうともせずに、くしゃくしゃに歪んだ表情を隠しもしないままに、彼女は真っ直ぐにじっと俺の目を見詰めて泣いていた。

感情のタガが外れてしまった彼女を目の前にして俺は、金縛りにでも合ったかの様に微動だにする事が出来なくなっていた。









事の始まりは、彼女と出逢ってから2度目の誕生日だった。



変にあれこれと画策して、欲しくもない物をプレゼントされるよりも、本人のセンスで本人が望む品物を選んでもらった方が、思い出の日の記念にもなるし大切に使ってもらえそうだからと二人で街に出掛けたんだ。

「それで、予算はいかほどご用意されているのでしょうか?
私の誕生日のお値段はおいくらと見積られましたか?
それが貴方が私に着ける、正に私の、私自身のお値段だと貴殿の御覚悟はできていらっしゃるのでしょうか?」

「えっ!給料日前だから現金なんて3万円くらいしか持ってないよ。」

言ってしまえば、確かに大切な彼女ではあるが、それでも現時点に於いては、たかが彼女でもある。
そりゃぁ、まぁ、特にこれと言った不満もなければ、直して欲しいなんて部分も今の所は見当たりはしないのだけれど。
たかだか誕生日のプレゼントである。
低賃金労働者である、この俺が、まぁ背伸びをしたとしても、3万円くらいの予算があればと安易な計画を立てていたのだった。


「いいよ、お気持ちだけ頂ければ。」

嬉しそうにはしゃいでいた彼女の表情に、ふと、寂しそうな翳りが射した気がした。
そんな表情をさせてしまった自分の配慮の無さに俺は3万円と言う予算の無計画さを思い知らされた。

思えば、この彼女に対して俺は、
はっきりとした恋愛感情など抱いてはいなかったんだ。
だけど、これまで付き合って来た期間の中で一度足りとも嫌だなと思った部分はなかったし、一緒にいて退屈した事がなかったんだ。
こんな女性と結婚できたら、俺は多分、ほんわかとした幸せを感じながら一生を過ごせるのだろうなと、漠然としたイメージを持っていた。

好きではあるが、多分俺は彼女を愛してはいない。
凄く大切に思ってはいるけれど、独占欲は沸いて来ない。
完全に自分だけの女にしたいとも思わなければ、彼女から束縛もされたくはないと感じてる。


しかし今、ふと、寂しそうな翳りが射した彼女を表情を見て俺は、はっきりとした思いが自分の中に芽生えている事を自覚したんだ。


俺は、彼女を絶対に手放してはいけないんだ。
彼女は俺に取って必要な女性なんだと。



そして、
誕生日のプレゼントを買う予定はキャンセルして、
急遽、それならば婚約指輪が欲しいとハイテンションで言い出した彼女の勢いに押されて、
あれよあれよと言う間に俺は、婚約指輪をカードで購入してしまったのだった。















純文学って憧れるんですよね。
くどくどとした、長ったらしい説明文を要さずに人の心の機微を的確に情緒的に綴る言葉選び。
いにしえの文人は、それを語るべき人柄を有していたのだろうと想像してしまうと、
卑しいくもハレンチな小動物でしかないこんな俺は、人に何を伝えようとしているのかさえも分からない羅列文を書き散らす始末だ。

ここらで大勝負でもするか!と身構えて書き出しては見たものの、
原たいらさんに300点を賭ける勇気もありゃしないヘタレはショボくれております。