toshimichanの日記

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ゴミ箱 4

ねぇあなた。

あなたがくれる物なら
形のない物がいいな。

落としてしまったり、
間違って壊わしてしまったり、
何処かに置き忘れたり、
ついうっかりして失くしたり、
形のある物は
そんな風に
私の手元からいつか必ず
その姿ではいなくなるから。


いつまでも、
私の中に留めて置ける。

いつでも、どんな時にでも、
引き出して、
蓋を明けて、
思い出して、
眺めたり味わったり、
温めたり、
頬刷りをしたり、
抱き締めたり、

そんな事を
何度でも繰り返し、
褪せる事なく、

いつまでも、
私の中に留めて置ける。







あなたの、







えっ、なに?
ここで終わらせてしまう、この根性のなさったら、
中途半端の極み、俺の真骨頂。


銀杏並木

246の青山通りから、神宮絵画館に至るまでの銀杏並木は、
新緑が芽吹く初春の頃には、
若々しく穢れのない淡い新緑を、その大樹の枝々に讃え、木々の逞しい生命力と移ろう季節の息吹きを感じさせてくれる。

寝静まる事のない都内のど真ん中で、やっと僅かばかりの静寂が訪れる真夜中に、煌々と光る水銀灯に照らされた銀杏の若葉は、この時と言わんばかりに新緑の輝きを遊歩道を歩く真夜中の散策者に惜しみ無く降り注ぐんだ。


「この時期は、この場所が一番綺麗だよね。」

化粧っ気のない風呂上がりのままの素っぴんで大樹を見上げている彼女に、水銀灯の木洩れ日が降り注いでいた。

「確かに、高いビルの、高級なレストランからきらびやかな夜景を見下ろしながら、格好良く都会的に、とでも思ったんだけど、
自然の息吹きを目の当たりにしている方が心は穏やかになるよね。」


俺に向き直った彼女が強く固く俺の手を握り締めて、

「ここを選んでくれてありがとう。」





溢れ出る涙を拭おうともせずに、くしゃくしゃに歪んだ表情を隠しもしないままに、彼女は真っ直ぐにじっと俺の目を見詰めて泣いていた。

感情のタガが外れてしまった彼女を目の前にして俺は、金縛りにでも合ったかの様に微動だにする事が出来なくなっていた。









事の始まりは、彼女と出逢ってから2度目の誕生日だった。



変にあれこれと画策して、欲しくもない物をプレゼントされるよりも、本人のセンスで本人が望む品物を選んでもらった方が、思い出の日の記念にもなるし大切に使ってもらえそうだからと二人で街に出掛けたんだ。

「それで、予算はいかほどご用意されているのでしょうか?
私の誕生日のお値段はおいくらと見積られましたか?
それが貴方が私に着ける、正に私の、私自身のお値段だと貴殿の御覚悟はできていらっしゃるのでしょうか?」

「えっ!給料日前だから現金なんて3万円くらいしか持ってないよ。」

言ってしまえば、確かに大切な彼女ではあるが、それでも現時点に於いては、たかが彼女でもある。
そりゃぁ、まぁ、特にこれと言った不満もなければ、直して欲しいなんて部分も今の所は見当たりはしないのだけれど。
たかだか誕生日のプレゼントである。
低賃金労働者である、この俺が、まぁ背伸びをしたとしても、3万円くらいの予算があればと安易な計画を立てていたのだった。


「いいよ、お気持ちだけ頂ければ。」

嬉しそうにはしゃいでいた彼女の表情に、ふと、寂しそうな翳りが射した気がした。
そんな表情をさせてしまった自分の配慮の無さに俺は3万円と言う予算の無計画さを思い知らされた。

思えば、この彼女に対して俺は、
はっきりとした恋愛感情など抱いてはいなかったんだ。
だけど、これまで付き合って来た期間の中で一度足りとも嫌だなと思った部分はなかったし、一緒にいて退屈した事がなかったんだ。
こんな女性と結婚できたら、俺は多分、ほんわかとした幸せを感じながら一生を過ごせるのだろうなと、漠然としたイメージを持っていた。

好きではあるが、多分俺は彼女を愛してはいない。
凄く大切に思ってはいるけれど、独占欲は沸いて来ない。
完全に自分だけの女にしたいとも思わなければ、彼女から束縛もされたくはないと感じてる。


しかし今、ふと、寂しそうな翳りが射した彼女を表情を見て俺は、はっきりとした思いが自分の中に芽生えている事を自覚したんだ。


俺は、彼女を絶対に手放してはいけないんだ。
彼女は俺に取って必要な女性なんだと。



そして、
誕生日のプレゼントを買う予定はキャンセルして、
急遽、それならば婚約指輪が欲しいとハイテンションで言い出した彼女の勢いに押されて、
あれよあれよと言う間に俺は、婚約指輪をカードで購入してしまったのだった。















純文学って憧れるんですよね。
くどくどとした、長ったらしい説明文を要さずに人の心の機微を的確に情緒的に綴る言葉選び。
いにしえの文人は、それを語るべき人柄を有していたのだろうと想像してしまうと、
卑しいくもハレンチな小動物でしかないこんな俺は、人に何を伝えようとしているのかさえも分からない羅列文を書き散らす始末だ。

ここらで大勝負でもするか!と身構えて書き出しては見たものの、
原たいらさんに300点を賭ける勇気もありゃしないヘタレはショボくれております。

ゴミ箱 3

腕に刺さっている針から伸びるチューブを辿れば、そこには、「透明になる薬」と書かれた点滴が吊り下げられていた。
あぁそう言えば、確かに針の刺してある左腕だけが心なしか薄くなって来ている様に見える。
「そうか、私はこうして段々と影を薄くしながら透明になって行くんだな。」と、妙な安堵感に包まれながら、ベッドの周りに集まってくれている家族や友人のやるせない笑顔を眺めていた。
やがて、枕元で響いていた不規則で気紛れな電子音がフラットで一定の音量に変わった途端、私はみんなの視線の向いている場所から、ふわりと浮き上がる事ができたんだ。
「やった、とうとう私は透明人間になれたんだ。
どう?見て見て、って、見えなくなったんだから分からないよね?」
嬉しくて嬉しくて、ベッドの方を見詰めている母の背中に抱き着いたんだ。

ふっと、母の体をすり抜ける私の体。
「あれ?あれあれ?」
通り抜けた母の体の向こう側にいたのは、ベッドの上で眠っている私がいる。
「ねえ、お父さん。」
振り向きざまに父の胸元に飛び込んだんだけど、父もまた私の体を受け止める事なく、すり抜けてしまった。



そう言えば、母の体をすり抜けた時も、たった今、父の体を通り抜けた時にも、
ベッドで寝ている私に向けられている二人の気持ちが読み取れた様な気がしたけど、、、

えっ?違うよね?
まさか、二人してそんな、



真由美はどうなの?


武志はどう思っているの?



やっと、念願の透明人間になれた私を、
そんな風に思っていたの!



ええーっ、
こんな事なら、今すぐにでも死んでしまいたい。


「3時43分、ご臨終です。」

生ごみ

そう言えば、いつの間にかセミの鳴き声が聞こえなくなっている。

晴天の真っ昼間だと言うのに日向を歩いていても、辛い暑さは感じなくなっている。

そよと吹く柔らかな風の中に金木犀の囁き掛ける様な優しい甘い薫りが運ばれてくる。

「今年の夏も、やっぱり花火は観に行けなかったね。」

金木犀の薫りに、優しく甘いフレグランスを飾り付けたのは、一緒に直ぐ隣を歩いている彼女だった。

花火好きな彼女は、毎年、近隣で打ち上がる花火の予定表とにらめっこをしながら、その年の花火見物の日程を調整するのを楽しみにしていたのだが、こんな世の中になってしまったここ何年間は全く花火見物には出かけられていなかったんだ。

蜩の輪唱が始まる前の、まだ、クマ蝉やアブラ蝉が鳴き散らかしている時間帯に浴衣を着て、うちわを持って花火会場へと向かうんだ。

打ち上げ時刻までには、虫除けや腹ごしらえの準備をちゃんと整え、わくわくしながらその時を待っている。


お腹に響く大轟音の中で、夜空に広がる色とりどりの閃光の宴に酔い知れる一時。

寄り添って重なり合って、同じ彩りと同じ音響に心を震わせる僅かな時間。

「凄かったね、綺麗だったね、楽しかったね。」と興奮覚め遣らぬ彼女と語らいながら、まだ蒸し暑い夜風の中を手を繋いで当たり前に花火会場から同じ家に帰る時の幸福感をここ何年かは味わってはいない。


もう既に、また何十回目の金木犀の薫る季節がやって来てしまったんだと、
残念でもあり、
相変わらず当たり前に直ぐ隣を歩きながら、他愛のない、どうでもいい話しをしながら家路を辿っていられる喜びに感謝を捧げたい。








えっと、
これは誰でしょーか?
何を言いたいのでしょーか?

ゴミ箱を漁っていたら、
こんな生ゴミがありましたので、
今日は水曜日で生ゴミの日だと思い、
こんな時間ではありますが、
ご近所さんの目を盗んで捨ててしまいました。

ゴミ箱 2

俺はその瞬間だけ
耳を塞いでいたんだ。

読唇術なんて
高等な技などの心得など
俺は持ち合わせていやしない。

それなのに、
はっきりとした
決意の籠った君の声が
鮮明に
直接俺の中に
届けられてしまったんだ。

その言葉を聞きたくはなくて、
その言葉を発する君の唇を
見たくはなくて、
目を伏せて、
両手で耳を塞いで、
必死に君の笑顔を想像して
心を抑え着けていたはずなのに、


ザクザクと鼓膜に擦り着けられる
動揺を現す血流のざわめきで
それ以外は
聞こえているはずの
全ての雑音が
遮断されていたはずなのに

君の声は、
俺の両手を引き剥がし、
俺の鼓膜を強引にこじ開けて、
直接
この胸のど真ん中めがけ
木杭を撃ち込むかの様に
叩き込んで来たんだ。

その言葉は多分、
君が今、
俺に伝えなければならない
洗練され抜いた
的確に君の気持ちを
言い表した言葉。

その言葉は多分、
俺が今、
君の口から吐き出される
最悪で一番残酷な凶器だった。

ゴミ箱 1

止めどなく溢れ出す、
熱く切ない感情を
俺はいったいどんな風に
君に伝えたらいいのだろうか。


この耐え切れない、
心を震わせる朱く熱い気持ち
言葉などにできやしない。
口から出せる
どんな言葉を駆使しても、
全てが嘘になってしまう。
これを言い露せる表現なんか
何処にも有りはしないんだ。


だけどもう、
なんとかして、
この気持ちを君に
吐き出さなければ、
俺の胸は今にもはち切れそうで
苦しくて、
息もできない。


青にしては
やけに白っぱけた眩しい空を見上げて、
今直ぐにやりたいと願う気持ちを
薄く儚い三日月が
薄水色の空に溶け込んで嘲笑う。


バカなんだよな俺。

その瞳、その仕草。
話す言葉の
まろやかな声の甘さ。

揺れる髪一本一本が輝いて
いたずらな風にフワリと遊ぶ。

薫り立つ素肌の白さに反射する
力無き陽光に肌目の艶を見せ付ける。


そんな君のこの傍で、
俺の何かが蠢き騒ぎ出す。



それを言葉にして、
それを文字にして、
それを色彩にして、
その気持ちを具現化できる術を
何も持っていないこの俺は、
君にどうやって
伝えれば良いのか。


ただただ強く抱き締めて、
君の体がめり込んで
俺の中に取り込めたら
この思いは、
伝わるのだろうか。


熱い思い
溢れ出て、滲み出す。
受け止めてよ、
今すぐに。


抱き合って、重なって、
組み敷いて、
君の中心にめがけて
我武者羅に打ち着けて、
無我夢中。


伝えたい、この辛さ
苦しくて、切なくて、
物凄く気持ち良い。


滑らかに溢れ出す
君の応えのその叫び。
受け取ってくれるのか。
震えて波打つ締め付けに
君のどよめきを感じ取る。


耐え切れず炸裂させた情熱の汁。
君の心の中心へと、
この思いの丈を注ぎ込む。
届いたのかな、俺の気持ち。




相変わらず青くない空が、
君の瞳の中に写ってる。
思いを注いだ肢体に重なって
空と君との間に俺がいる。


注ぎ込んだはずの君への思い。

受け止めてくれたはずの情熱。


君の心を司る饒舌な唇から
無造作にトロリと吐き出され、
俺の思いが拒まれてしまった様な
無機質な寂しさに覆われる。



味気のない風が
背中から掛け登り
無造作に俺の肩口を叩いて去った。




君を知っている俺は、
これだけでは
始まりにすらならない事を知っている。


言葉ではない俺の思いを
意図も簡単に飲み込んだ唇は
君の内に秘めた闇を
語ってはくれない。


瞳が物足りなさを訴え
その肢体が、
今、やっと目覚めた証として
うねり始める。


俺を知っている君は、
ここから
俺が朱く熱い気持ちで
君の魔性に相対する
覚悟を据える事を知っている。


俺の拙い表現力だけでは、
この朱く焼け焦げた情熱は
君に伝える事はできないんだ。


多分、同じように、
君が俺に求めているであろう
君の内に燻り始めた欲情は
俺がどんなに推し量ろうとも
その真髄に触れる事は
できないのだろう。


俺は、
それを知っていながら
それに近付き
それを掴もうとするのは、
止めどなく溢れ出す、
この熱く切ない感情が
いつかきっと
君に届けられるだろうと
信じているからこその愚行なんだ。