マカロン的な幸せ
居間の方から娘と家内のやかましい話し声が聞こえている。
居間と俺のいる部屋の間には、4畳半の寝室を隔てているのに、二人の笑い声はきゃっきゃきゃっきゃと俺の耳にまで届いていた。
ボンヤリとなんだか幸せなんだなぁとしみじみと思いながら、
夜間に録り貯めしていたアニメを流し視ていると、
その内に家内の一際大きな声が、俺に呼び掛けてくるのだった。
「お父さん、不二家のマカロン食べる?
あんまりたくさんないから、速くこっち来ないと無くなっちゃうよ。」
いやいや、そのマカロンは、俺が昨日、不二家の店先を通り掛かったときにカラフルさが可愛いくて目に留まったのを、ふと美味しそうだなと思って買って来た、俺のマカロンだった。
居間の扉を開けると、娘と家内がニコニコしながら小箱に入ったマカロンを口に運びながら、
「これ、誰に貰ったの?
なんだか、不二家のマカロンも一回り小さくなったよね。
高いんだから、一個を一口で食べちゃうのはもったいない気がするけど、これはこれで一口で食べるのが作法だよね。」
幸せそうな笑顔でマカロンを口に運んでいる家内と娘。
「そのマカロンは、俺が土曜の休みにゆっくり、のんびりと味わおうと思って、買って置いたヤツじゃん。」
12個入りのマカロンは、もう既に残りは3個ほどになっていた。
「お父さんは糖尿病なんだから、こんなに甘いお菓子は食べちゃいけないんだからね。」
と言いながら、娘と家内はそれぞれ一つづつを口にほおり込むと、
最後の、ポムポムプリンの黄色マカロン一個を差し出して、
「一番美味しいのを上げるよ。」
いや、それ、俺が食べたくて買って来たんだし。
マカロンだけではなくて、
俺は時々会社帰りにコンビニとかケーキ屋さんに寄って、ちょっとしたスイーツを買って帰るんだ。
それはもちろん、自分が食べたくて買うわけではなくて、
このなんでもない、ありふれた家族の日常が、多分、世間様が言う「幸せ」なんだろうなと思えるからなんだ。