真っ白な見馴れない雪景色の町並みを駅に向かって走っていた。
なんか、まだズキズキしてて変な感じだよ。
でも、、、
外を眺めながら涙を流しているのが、なんとなく彼女の雰囲気から分かってしまった。
後悔はしてないよね?
してるよ。
間髪入れずに返答が返って来る。
なんだよ、それ。
こんなの嫌に決まってるじゃん。
じゃん。ってなんだよ、それ。
その言葉使いは優香の前では禁句だからな。
前じゃなかったら使って良いの?
この辺りの地域では、言葉尻に「じゃん」を付けるような言い回しをする人などは滅多にいなかった。
手の甲で涙を拭いながら、運転をしている俺の顔を睨んでいる。
100%これっきりと決心して、エリカを抱いた筈の俺の気持ちがグラッと揺らいだ。
だって、このズキズキがなんだか凄く嬉しくて幸せで、、、この瞬間が刹那過ぎるよ。
これからを考えたら、今のこの気持ちが余計に辛いのが分かってるんだよ。
この心のやり場はどうしたら良いの?ねえ。
こんな気持ちになっちゃうのが分かってたら、して貰わなかったのにな。
見馴れているはずの町並みが、雪景色に覆われて眩しかった。
優香の笑顔が心臓を鷲掴みにして、後ろめたさや切なさが込み上げる一方で、直ぐ隣のエリカが可愛いく思えて苦しくなった。
どう考えても俺が優香を愛しているのは自分でも充分に分かっている。
だけど、このエリカも欲しくて堪らなくなっていた。
揺れ動いてはいけない心に揺さぶりを掛ける様に、エリカが声を張って訴えて来る。
好きなんだよ。
赤信号の停止のタイミングに合わせて、頬にキスをして来た。
それを拒む事が出来ない、俺の意思の弱さが情けなかったし、正直、嬉しくてしょうがなかった。
それまでは、俺に取っての優香は不動の恋人なんだと信じ切っていた。
エリカを抱いた位で、こんなにも心が動くとは思ってもいなかった。
それは、優香が俺を好きだと告白してくれて、実際に今では愛されていると実感しているからなのだが。
元はと言えば、俺が優香に告白されたから始まった恋愛関係であって、そもそも俺はそれまで優香と言う存在を意識はしていなかった。
行き付けの店の可愛いらしいアルバイトのウェイトレス。
苗字も知らない、優香と言う名前だけしか知らない様な女の子でしかなかった。
そんな知り合いでもなかった女の子から告白をされて、優香と言う女を知り、そこから優香を受け入れて恋愛に発展した。
それで今の恋愛に到ってる。
しかし、エリカは優香の友達として俺と知り合い、俺と接する様になって、少なからず俺はエリカが可愛いと思っていたのは確かなのだ。
優香とは全くタイプの違う女の子。
優香が可愛いのは、優香の高校での学園祭でのミスコンで証明されている。
ダントツの票差で一位を獲得したと言う話は、何度も耳にしていた。
そんな女の子が、こんな醜男の俺となんか付き合っている奇跡は一生分の運を使い果たしてしまったと覚悟をしているのだ。
その幸福の絶頂期を失なうかも知れない賭けに、俺の心は揺らいでいる。