toshimichanの日記

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エリカ 2

雪はより一層大粒になり、ヘッドライトに貼り付き始めたのか前方を照す範囲が狭くなって来ている様に思えて来た。

を行き来しているワイパーも掻きよけた雪を固まりにして溜め込んでしまって、端っこの視界を妨げてしまっていた。

気象状況は可なりの悪化を辿っているのは確かだった。

 


やっと市街地を抜けて、町外れの高速道路のインターを過ぎた辺りに達した頃には、完璧な雪景色になってしまっていた。

ラリー仕様の車とは言え、タイヤはノーマルでしかも2駆のFR車。

インターを過ぎれば、この先は細い登りの山道が続いている。

エリカの家はまだその山道を越えた向こう側にあるのだ。

こんな悪天候の中で、山道を踏破するのは危険過ぎる。

 

 

 

「あのね、ちょっと相談したい事があって待ってたのね。」

「だよね、、、の筈だよね。

じゃなきゃ、こんな悪天候の中で待ってる分けないよね。

でもさ、俺はお金は持ってないよ。」

「なんでお金だと思ったのよ。」

「エリカのあの必死な感じは金しかないだろうが。」

「私は金の亡者かっ!」

やっとエリカらしい笑顔を浮かべてくれた。

それまでは、寒さのせいだったのか、なにやら深い事情がありそうな面持ちで、らしくない重苦しい雰囲気を纏っていたエリカだったので取り敢えずは笑ってくれたのでホッとする事が出来た一瞬だった。

 


「ところで、この今の状況なんだけどさ、凄く言い辛いんだけど、エリカの家までは辿り着けそうにないんだけど、ここから引き返して良いかな?

取り敢えず俺のアパートに避難するって感じなんだけど。」

 


「ん~ん、それは、、、

こんな悪天候とは言え、もしかしたら優香が来るかも知れないでしょう、そんな所に私がいたら核戦争が勃発しちゃうわよ。

だいたい、私がなんであんな所で貴方をじっと待っていたと思ってるのよ。

ちゃんと、そこの所を考えてくれないかな。

天気予報だってしっかりと寒くなるって、雪が降るって言ってたんだからね。

それを覚悟して、チャンスだと思って、待ち伏せしてたんだから、私の神風的な特攻隊精神を無駄にしないでよ。

鈍感なんだから。バカ!」

いやはや、時々らしき態度を取ってはいると思っていたのだが、優香の友人としてのエリカ様は見た目のままのエリカ様だったとは、俺の目もまんざらではなかったって事なんだな。

と、妙に納得をしている自分が可笑しかった。

 


ねぇ、ちょとこの辺りで車を止めてくれる。

サイドシートに座っていた体を俺の方に向けて、真剣な面持ちで急に改まった態度を取ったのだった。

おいおい、オシッコでもしたくなっ、、、

エリカの眼差しは、そんな軽い冗談を受け付けはしない光を俺に向けて放っていた。

なっ、なに?どうかしたの?

お願いを聞いて欲しいのね。

 


こんな真剣な面持ちのエリカを俺は始めて見た気がした。

それまでの俺の知っているエリカは、明るくノリの良い、派手目なきらびやかな雰囲気をしていて、どことなくギャバ嬢風の美女。

冗談を言い合い、ケラケラと笑いながらその場を明るい空気に和ませてくれる様な人柄だとばかり思っていた。

そんなエリカが、思い詰めた様な視線を真っ直ぐ俺に向けて、真剣な表情をしているのだ。

そんなビリビリと張り積めた空気が俺を自ずと真正面から向き合う姿勢を取らざるを得なかった。

 


私は、去年の冬頃から優香からずっと貴方の話を聞かされて、相談されて来たのね。

うん。

その頃の私は、貴方の事は何にも知らなくて、優香からの情報の中でしか貴方はいなかったんだけど、、

優香と貴方が付き合い始めて、優香は物凄く幸せそうで、良い女としてどんどん変わって行く姿を私は直ぐ傍で目の当たりに見て来たのね。

ああ、そうなんだ。

優香はね、本当に変わったの。

えっと、そうなのかな?

俺には、分からないけど、

なんだよね、きっと。

あの優香をこんなにも変える事の出来る男性って、どんな人なんだろうって思っていたらね、

貴方が私の中に入り込んで来ちゃったんだよね。

ん?ん?それって、、、

優香が嬉しそうに、楽しそうに貴方の事を毎日毎日私に話をするの。

その内に、きっと優香は私達に貴方を自慢したかったんだと思うけど、私達優香の友達が貴方のアパートにお邪魔する様になって、学校帰りの溜まり場になってたでしょ?

あっ、えっ、俺を自慢てさ、そんな積もりだったんじゃないと思うけどな。

違うのかも知れないけど、少なくとも

私はそんな風に感じてたの。

貴方が帰って来て、優香と話をしている時に優香に向けている眼差しの優しさを貴方は自分では気が付いていなかったのかも知れないけど、

あの視線の優しさは女に取って心を持っていかれてしまう魔力が込められてるのよ。

その眼差しのままで貴方は、私と話しをしてくれていたのを貴方は自覚してたのかな?

えっ、俺の目付きのクレームをこんな形でしているのかな?

違うってば!。

ごめん。

私、見た目がこんなだから、貴方がどんな風に思ってるかが分からないんだけど、

私がどんな女だと思っているのかを今すぐに聞きたいのね。

なになに?詰まり話しの流れは、

今、ここで俺にエリカを評価しろって事なの?

違うよ!絶対に無理なのは私にも判ってるし、友達の優香と張り合う積もりもなければ、勝負にならないのも充分に知ってるよ。

優香と勝負ってさ、それは優香となんの勝負をするのさ。

だから、勝負にはならないのは分かってるんだってば!

寒さの性ではない震えがエリカの唇を震わせていた。

だから、今私は貴方に告白をしてるんだってばっ!分かってよ。

感情が限界を超えて発せられた、エリカの精一杯の怒鳴り声だった。

私の事は嫌いじゃないんでしょ?

貴方が女としてどんな風に私を見てるのかを知りたいのね。

こう見えて、私ねまだ経験した事がないんだよ。

だから、絶対に始めては好きな人としたいって、、

こんな女だから、今までに何度もそうなりそうになって、何度もしそうになったんだけど、でもこんなに好きな相手じゃなかったから、真剣に好きって思えなかったから、ずっと誰に対しても許して良いって思えなくて、

でも、今はね、どうしてもこの気持ちを伝えたくて、ここで私を曝け出して告ってるのね。

真剣だから、恋しちゃったから、どんな風に思われてるのかをどうしても知りたくて、

もう良いよ、止めろよ、そこまでで良いから。

嫌いなわけはないだろ。

美人なんだし、明るくて朗らかで可愛いよ。

当たり前に好きだよ。

だけど、その理由はいらないよね。

結果は分かってるんだよね。

エリカの気持ちは充分に伝わったよ。

分かってないよ!

私が聞きたいのは、そこじゃないよ。

嫌われてるなんて思ってない!

私は、貴方に処女を奪って欲しいの!

ただそれだけをお願いしてるの!

付き合えるなんて、始めから諦めてるし、望んでもいない!

エリカっ、今自分が何を言ってるのか分かってるのかよ!

そんな事が出来る分けないだろ。

こんな雪の中で待ち伏せみたいな真似までして、何をしてるのか自分で分かってるのかよ。

好きな人と始めてを経験したいだけなのね。

もっと自分を大切にしろよ。

大切にしているからこそ、貴方にお願いをしているんだよ。

苦しいくらいに切なくて大好きだからこそ、貴方に処女を奪って欲しいんじゃない。

このまま、またどこの誰ともわからない、好きなのかも分からない様な人と付き合い出して、気持ちもはっきりしない相手に処女を渡したくないのよ。

私は自分が大切だから、この気持ちは本物なんだから、その相手が今目の前にいて、それを伝えてるのね。

無理を言ってるのは分かってるよ。

いけない事をしようとしてるのも知ってるし、優香には申し訳ないとも思うけど、

今、このままの気持ちを持ち続けて生きて行ったら、私は一生後悔するのも分かってる。

しても、しなくても、どっち道後悔はし続けるんだもん。

だったら、必死に真剣にぶつかるしかないじゃない。

雪なんて関係ないよ。

寒さなんてどうでも良い。

今ここでこうして告ってる事実が私って女なのね。

じゃあさ、俺が、それじゃエリカを抱くよって従う様な男だったらどうする積もりなのさ。

今、真剣に付き合ってる彼女がいる男が、他の女の体を目当てにそんな簡単に応じてしまう様な男でも構わないとでも思ってるのか?

それでも良いよ。

体目当てに抱いてくれるのなら、寧ろその方が私には良いよ。

逆に、今この場で、この車の中で私を襲ってくれるのだったらそうして欲しい。

なんだよそれは、そんな事をする分けがないだろ。

優香は俺の性欲もちゃんと管理してくれてるんだよ。

他の女にムラムラしない様にって、一生懸命に頑張って練習してるんだからさ。

こんな時に、そんな自慢話しなんかしないでよ。

私が負けてるのは充分に理解してるんだから、これ以上私を惨めにしないでよ。

なんで惨めになんかなるんだよ。

俺だって、もしも優香がいなかったら、こんな告白されてたらエリカと付き合ってたかも知れないんだよ。

まあ、もっとも、その時に俺は始めからエリカの視界には入ってなかった男だから、こんな話し事態は起こらなかったけどね。

でも、現実は今目の前で私を面白がってからかってるじゃない。

からかってなんかないよ。

じゃあ、私のお願いはどうする積もりなの?

何時間も寒い雪の中を待ってた女を、覚悟を決めて、真剣にお願いしてる女を簡単にあしらっておしまいにする積もりなの?

 


街外れの高速道路のインターチェンジエリア付近には、何軒ものラブホが密集して建ち並んでいるのだった。