toshimichanの日記

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笑顔の天秤

覚えて居たくないのに

思い出になってしまうだろう瞬間が

繰り返され記憶に刻まれて行く。

 


君が笑っている。

はしゃいで、嬉しそう。

去年の今日も同じ様に

チョコレートを片手に

あの改札口からにこやかに

駆け寄って来て

嬉しそうに笑ってくれた。

 


バレンタインもクリスマスも、

誕生日も出逢いの記念日も、

記憶に残る記念日の全て

待ち合わせの色んな場所で

君は何時でも

嬉しそうに笑顔を浮かべて

駆け寄って来る。

 


雪混じりの冷たい北風に

黒髪やマフラーを揺らしながら

真夏の日差しに額に汗を浮かべて

日傘やハンカチ握りながら

僕の姿を見付けた途端に駆け出して

いつもいつも会う時には

必ず笑顔で駆け寄って来てくる。

 


そんな君の気持ちを、

僕は何度も何度も受け止めて、

今日もまた楽しいひと時を、

無邪気に過ごしてしまうんだ。

 

 

 

何も知らずに

送り出してくれた家内の笑顔が

背中に突き刺さったままで

行ってらっしゃいの呪いの様な木霊を

君の笑顔が見事に

打ち砕いてしまうこの瞬間に。

 

 

 

持ち帰って

思い出してはいけない眩しい笑顔が

鮮やかに記憶に残されて、

ただいまの声だけでは消し去れない。

お帰りなさいの笑顔が僕を殴りつけ

僕は笑顔になんてなれなくなった。

 


踏み込んでしまった過ちは、

臆する事もなく勝ち取ろうとする。

いじらしくて勝ち気な笑顔。

真っ直ぐに気持ちをぶつけて

僕の背景を塗り潰す様に

はしゃいで喜んで。

僕に現実を振り返る事を許さずに

濃密な時間を君は重ねて行く。

 


必ずしも重い方に傾かない天秤を

持ってしまった天罰なのか

二つの笑顔が重すぎて

上皿になんて乗り切らない。

溢れる思い出が零れ落ちて

真ん中を指さない針先は

きっと僕の選択を許しては

くれないのだろう。

 


奪い取ろうとする笑顔には

駆け引きや悪意などありはしない。

何も知らない優しい笑顔には

根底に落ち着いた芯の強さがある。

どちらにも傾かず、

応えも出さずに、

僕は天秤の皿にまた一つ

賭け変えのない笑顔を乗せて、

腐敗臭のする汚いため息を

呑み込んだ。

 


何処ででも手に入る

ブランドではない筈のチョコレート

皮肉なのか、運命のいたずらなのか、

悪魔的な偶然は、

同じパッケージを二つ揃えて

両側の皿にずっしりと

満面の笑顔と共に

 


余りにも苦く渋い

痛みを伴う刺のあるチョコレート

喉を焼き心を冷やす

愛と言う名の猛毒が、

もがく事を許さない。

 


やがて、その重圧に耐えかねて

へし折れる天秤は

鋭く尖った針を

俺の思い出を串刺しにして

くれるのだろうか。