toshimichanの日記

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緊急事態宣言下で

この季節、

夕方の5時位の時間帯はまだ外は

明るく太陽も夕日とは言い難い高さで、

間近のビルの隙間に挟まっている。

 


真っ白なレースのカーテンが

大きな一枚ガラスのテラス窓で輝いて、

リビングの中に陽射しを反射させて

夕方の雰囲気などは全く感じさせない。

 


それでも、

壁に掛かっている

きらびやかな仕掛け時計は、

落ち着いたオルゴールのメロディーと

共に動き出して、

可愛いお人形達が踊り出し

その時刻を告げていた。

 


「それじゃ、俺、行くね。」

 


飲み掛けの冷めたアールグレイ

残りを一気に飲み干して、

俺はワンショルダーのリュックを

持って帰り掛けていた。

 


「えっ、どこ行くの?」

そんな言葉に相応しいリビングの

明るさが、

帰ると言う俺の行動には

似合わなかったのは確かだった。

 


しかし、

午後5時を知らせる時計の調べは、

間違いなくリビングには響いていて、

その太陽の高さや部屋の明るさには

関係なく時間的には夕方になっていた。

 


ソファーに座ったままで、

見上げる様に俺を見詰めるひろみの

表情は、

彼女の言い放った言葉の

意図のままの表情をしていた。

 


一瞬の戸惑いの表情を浮かべてから、

少しの間を置いて、

 


「あっ、ごめんね。

  えっと、、、」

 


ひろみと付き合い出してから、

かれこれ7年の年月が経っているが、

去年の今頃からだったろうか。

 


付き合い方の形態を

変化せざるを得なくなってしまった。

 


それまでは、

こんな時間帯に俺が帰ってしまう

なんて事などは無かったし、

寧ろ、

もっと遅い会社帰りの時間帯に

訪れては泊まって行く方が多かった。

 


そんな付き合い方をしていた

去年までの二人だったが、

このコロナ事変の影響で俺の仕事状況が

一変してしまい、

俺は家庭人になってしまったのだった。

 


あれから、

もう一年が過ぎようとしているのだが、

ひろみの中の俺の存在は未だに、

(傍に居てくれる人)。なのだ。

 

 

 

「今日はもう帰る時間だからさ、

  また来るよ。」

「今度はいつ来てくれるのかな?、、、

    なんて、聞いたら困るよね。」

 

 

 

 


私がいなくても、

あなたが淋しくないのは

あなたには愛する奥さんがいるから。

 


私よりもずっと大切な奥さんや

お子さんがいるから。

 


だから、

私なんかがいなくても

あなたの日常にはなんの影響もないよね。

 


でも私はね。

たった一時間が寂しくて悲しくて

苦しいくて耐えられない時間を

過ごしている時があるんだよ。

 


辛くて切なくて、

自分のおっぱいを力一杯に

握り締めたりしてる。

 


だけど、

いくら指を食い込ませても、

あなたに触って貰ってる時の

気持ちになんかなれない。

 


どんなに乳首を痛くしても、

あなたがしてくれる切なさを

味わえないし、

支配されてる嬉しさなんか

沸いては来ない。

 


お腹の奥底が

締め付けられる様な

哀しみで一杯になって苦しくて、

お臍の下の奥の方がギュッと

固く熱くなるんだよ。

 


私は女だから、

あなたを欲しくなるのは

気持ちだけじゃなくて、

子宮や性癖もあなたに会いたがるんだ。

 


そのやるせなさは、

これまでに何度も説明したよね。

それをあなたは分かってくれて、

私の中に棲む醜い女の本性と共に

一緒に付き合って来てくれたよね。

 


あなたが、

それ程私を欲しがってないのは

充分に分かってるよ。

会いたがってるのは何時だって私の方。

 


我武者羅に夢中になって、

一方的に引っ張って強引に

関係を結んだのも私。

 


年齢的にも釣り合わないのも

充分に分かってるし、

二人でいる姿が変なのも感じてたよ。

そんなのは最初から覚悟はしてたもん。

 


不倫が悪い事だなんて、

誰に言われなくても、

その醜悪な痛みは私自身が

毎日毎日味わっているんだから、

今更後悔なんてしていないよ。

 


私は、自分で奥さんやお子さんには

絶対に迷惑は掛けないって誓ったし、

何度も必死に私を殺して

我慢して来たよ。

 


でもね、

この窓辺のソファーに座って

夕日に化けていく太陽を見ていると、

これから夜になって行く事を

沁々と実感しちゃうんだよね。

 


あんなに明るい時間帯に帰って行く

あなたを見ているのは、

私にはまだ不自然なんだよね。

 


私の為のあなたがいなくなる。

あなたには、帰って行く場所がある。

 


この、あなたの為に作った私の部屋は、

あなたの過ごす場所では

無くなってしまったんだよね。

 


それは、

どんなに理解しようとしても

まだ私には辛過ぎる現実だよ。

 


それでも私はあなたを諦め切れないよ。

待つだけの女に成り下がったとしても、

自分に必要なものは

手離したくないから。

私の為のあなたは、

この世には一人しかいないし、

代わりなんて誰にも出来ないよ。

そんな事は、

あなたが一番良く知っているはずだよね。

私をこんなにも知り尽くせるのは

私が選んだあなただからなんだよ。

 

 

 

 


俺が家に辿り着く直前。

独りぼっちであの部屋に

取り残された彼女が、

無心になって打ち続けた長文メールが

着信する。

すっかりと夜になった星空が俺の後ろ髪を引くのだった。