toshimichanの日記

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俺はただ、、、

最初の頃は彼女も、俺に家族がいると言う事に後ろめたさを感じていたのだろう。

 

 

 

 


会社帰りに、週に1~2回程度、3~4時間の時間を割いて、当時の彼女のアパートにまで足を運び食事に誘い出していた。

そうでもしなければ当時の彼女の生活の中には、部屋から外出する事と言ったら自分の食事の材料を買い出しに出るだけで、全く人との接触はなくなっていたし、そんな状態だから、他人と言葉を交わす事などは全くなくなっていたのだった。

毎日通って上げたかったのだが、流石に俺も、そこまで接近してしまうのもどうなのかと思って、中3日くらいのペースに留めて会いに行っていたのだ。

 


その頃の二人と言ったら、特別な恋愛感情などなかったはずだった。

出会った時には、精神的なダメージの成せる事故的な間違いは犯してはいたものの、それ以降の俺は至って紳士的に世話好きなおじさんを演じていたはずなのだ。

 


煩わしく面倒臭い、邪魔なおじさんは、夜になると2~3日間隔でやって来ては、しつこくご飯を食べに出掛けようと誘いに来る。

誘い出す割には、安っぽいファミレスやら赤提灯やら汚い居酒屋みたいな場所ばっかりで、彼女のテリトリーからは逸脱した場所ばっかりで、しかも彼女には全く興味のない話しばかりを振って来ては、笑えだの、楽しめだのと人の態度に対して説教をして来るのだ。

はっきり言って、物凄く迷惑なオヤジだったんだと思う。

 


それも、たしか、一ヶ月もしていなかったと記憶しているのだが、俺が例に因って地方への長期出張に出てしまった期間があって、彼女のアパートには顔を出せなくなった時期があった。

 


多分、その時期だったのだろうと思う。

彼女の生活の中に、夜な夜な食事に誘いに来ては説教をこくオヤジを意外にも楽しみに待ってしまっている自分に気が付いたのだろう。

 


出張終わりに彼女のアパートに寄ってみたら、物悲しげな表情をしながら抱き着かれてしまったのだった。

彼女の中に、俺が植え付けらてしまった瞬間だった。

 


それからと言うものは、坂道を転げ落ちるが如き勢いで彼女が女を剥き出しにして淋しさをアピールし出したのである。

 


立場の逆転。

 


出来るだけ一人にはしない様にと心掛けて、足繁く通っていた俺に対してあれ程にウザがっていた彼女の態度が一変してしまったのだ。

 


明日は来てくれるの?

 


俺に言い訳が必要になってしまった。

 


仕事や家族、日々の予定など、

会えない言い訳を説明しなければならなくなったのだ。

 


淋しさを紛らわす為の肉体関係が、性欲に従う関係になり、やがては欲望に従って晴らし合う関係になって行った。

 

 

 

 


彼女に嫉妬が芽生え始めていたのだろうと思う。

 

 

 

 


私だけの俺ではない事実が、俺に向けられた愛情から湧き出る独占欲が抑えられなくなり始めていた。

 


アパートまで、会社から一時間弱。

仕事を終えた俺が、彼女のアパートへ行くべきなのかに迷いながら電車の乗り継ぎを思案しているハブ駅。

 


大都会新宿。

 


外回りに乗り換えてアパートに向かうべきか、外回りで帰宅しちゃおうか。

 

 

 

 


休日に二人でぶらぶらと新宿の街中を歩いていた。

そろそろ今住んでいるアパートを引き払って、もっと便利な都心に住みたいと言い出して、

数ヶ月前までは、引き籠りでアパートから全く外出もしなくて、その年齢には似つかわしくないファッションをしていたお嬢様が、新宿に住みたいと言い出したのだ。

サンダルにスウェットでなんて外出しづらくて、人がごちゃごちゃうようよと蠢いている街。

 


いや、資産家だと言うのは本人から聞いていたんだ。

とは言え、貧乏人からして見れば、資産家って言うのは、何が何処が資産家なのかが見当が付かないのだ。

 


ファミレスでドリンクバーを付けるのが、ささやかな贅沢なんだと思って喜んでいた直後に、自動販売機の前で十円が足らなくなってジュースを諦めなくてはならなくなってしまった悔しさは資産家にはないのだろうか?

モゾっと、釣り銭の小窓に指を突っ込んで、取り忘れのお金がないかを確かめたくなる衝動を大人の嗜みとして思い止まる葛藤なんかは味わった事はないのだろうか?

 

 

 

あっさりと、かの新宿の街にマンションを購入してしまった。

 


これなら、毎日私の所に寄れるよ。

私に、毎日一時間の話し相手が出来ちゃった。

いつ来ても私はここにいるし、何時でも綺麗な女でいるからね。

 


彼女の中の何が壊れ始めていたのかも知れない。

 


奥さんよりも、私の方が全然若いよね。

体だってまだまだ十分に綺麗だし、何よりも、どんな事だってして上げるし、させて上げられるんだよ。

 

 

 

 


いや、

俺はただ、辛そうにしている彼女を見捨てる事が出来なかっただけなんだ。