toshimichanの日記

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電車内での

帰りの電車の車内。

ドア際の手摺にもたれ掛かっていると、ふと、反対側に同じようにもたれ掛かっている女性と視線がぶつかった。

少し愁いのある、妙齢な感じのおとなしそうな美人さん。

ほんの一瞬だったが、明らかにお互いを見詰め合い、得体の知れない某(なにがし)かの意思を伝え合った様な気がしたんだ。



視線をそのまま窓の外の夜景へと移した俺は、ついさっきまで一緒にいた彼女の体臭の残り香がなんとなく鼻をくすぐっている様な気がしていた。

涙や汗はもちろん、身体から出るあらゆる体液にまみれた彼女の体を俺は浴室で丁寧に洗い流した後、自分の体も丁寧に洗って来た筈だった。

ボディーソープやシャンプー等のおしゃれな香りが残る様な物は使わずに、自分の家で使っている、ごくありふれた固形石鹸を使って、彼女の"汚れ"は落として来たはずだったので、彼女の残り香がすると言うのはきっと錯覚である事には間違いないと感じてはいたのだが。





今日の彼女は、疲労困憊しているにも関わらず、いつもの絡み合いの後に、疲れた身体と満たされた気持ちのままで長時間、これからの二人の関係や色々な不満を語ったのだった。

やっている時には、常に喘ぎ叫んでいたのだから彼女もくたくたにぶっ壊れてしまっていた筈なのに、そこは女の超人的な回復力の成せる技なのだろうか、向かい合って話し始めれば、しっかりとした受け答えができて、ちゃんと筋の通った話しが出来てしまうものなのだ。

身体のあらゆる部分に相当な力を入れて、あれだけ乱れ続けていたのだから、起き上がる事すら億劫(おっくう)なはずなのに、三十分もしない内によろよろと立ち上がって、ちゃんと珈琲をドリップして来てくれるんだ。

意地なのだろうか、プライド?礼儀ではないし、そんな形で感謝の気持ちを現しているわけでもないと思うのだが、

どんなに滅茶苦茶に傷め着けた後でも、その軋む音が聞こえて来そうなボロボロな身体の状態になりながら、それを与えてくれた貴方には、ちゃんと区切りの気持ちを伝えてから送り帰したい。

そう言いながら、毎回毎回、痣や傷、時には火傷まで負わせた妖艶な裸体をふらつかせながらお湯をか沸かし、珈琲を淹れ(いれ)てくれてる後ろ姿を眺めていると、身震いする程の、愛おしさなのだろうか、分けの解らない感情が胃の底深くから沸き上がって来て、絞り尽くされているはずの一物に血液が巡り出すんだ。

まだ血が滲んで、俺の歯形がクッキリと浮き彫りに刻まれている乳房を揺らしながら、危なげにマグカップを持って歩いて来る彼女の姿は、余りにも脆く(もろく)て、そして柔らかいんだ。

それは、満足を通り越して、魂を限界ギリギリの所で留めている妖精の様にも見えて、儚すぎて美しい。

そんな彼女が今日に限って、この関係はいつまで続けて貰えるのかに不安を感じているらしくて、傷の治り方も遅くなって来ている自分自身の体の老いにも言及して来たのだ。


俺は、彼女の頑強で根強い性欲を解す(ほぐす)為に、有りっ丈(ありったけ)の知恵を絞って色々な器具や道具を作り、それを駆使して
細心の注意を払い、出来得る限りの時間を使って彼女と寄り添っていたいと思っているんだ。

などと、言い訳がましく彼女を説得させながらも俺はその実、自分自身の本心は彼女からどうやって逃げたら良いのだろうかと心の中で模索していたんだ。




普段の彼女は、今、目の前で澄まし顔で立っている美人さんの様に、ごく普通の、何処にでもいる女性。

いや、美人さんは何処にでもいる分けではないのだけれど。

彼女もまた、目の前に立っている美人さんの様に、こうやって電車に揺られながら、澄まし顔で誰かの目の前に立ち、普段の生活を営んでいるんだと思うと、
今、目の前に立っている美人さんも、もしかしたら、俺の彼女の様に夜な夜な物凄い淫乱な宴を繰り広げている様な美人さんなのかな。
なんてうっかりと想像してしまった俺だった。




そんな矢先だった。
流れる夜景をバックに長い髪を耳に掛ける仕草で、襟足に着いた真新しい赤痣が見えてしまったのだ。

キスマークとは明らかに違う、異質な長さと角度で残された擦り傷の様な縄の跡。

いやいや、意味有りげにわざわざ横顔を俺の方に向けて髪を上げるその仕草は今、ここで必要だったのだろうか。

自覚のない行動とも思えない美人さんの不可解な身動きに、俺は違和感を感じざるを得なかった。

どう見てもその俯いた横顔は、微笑んでいる様に見えてしまっている。


電車内でのこの距離に於いて、反対側のドア際に立つ美人さんの匂いが、ここまで香ってくる筈はなかったのだが、
明らかにその美人さんからは、俺の彼女と同じ匂いが、俺の立っているこの場所まで漂って来ている。

つり革に立つ乗客も疎らな車内には、他に発情臭を漂わせる様な妙齢な年齢の女性などは見当たらなかった。

ついさっき、俺と視線を交えて伝え合った得体の知れない違和感は、
同じ様な異色の世界に依存しなければ、その日常生活に支障をきたしてしまう人種同士の匂いをお互いに感じ合っていたのかも知れない。

そんな事を思っていた時だった。

その美人さんが再び俺の方へと視線を泳がせる様に向けて来て、ほんの少し、チロリと唇を舐める様な仕草をするのだった。

いかにも意味有りげなその仕草は、明らかに俺に向けての意思表示でしかなかった。



夜の背景が急に明るくなり、ホームを照らす照明に移り変わり出す頃には、電車は速度を落とし、俺の降りるべき駅に到着したのだった。





だからなに?って声が聞こえて来てますよ!
別に感動や暖かな感情が沸き上がる様なモノなど私には書けません。
なにせしがないサラリーマンですので、仕事を終えてから家に帰って家族と過ごし、かみさんのお喋りに付き合いながらの家事をこなして、やっと床に着てからの数時間。
睡眠時間を削りながらの僅かな合間をぬって書いてますので、面白さは追及していませんので悪しからず。
でも、こんな駄文でも読んで頂ける事には、

ありがとうございます。

と常々、感謝の気持ちを持っています。

と、共に

ごめんなさい。

で締めくくりたいと思います。