toshimichanの日記

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蜻蛉

幼い頃の俺は、
視界を横切るトンボの勇姿に
心を弾ませ
夢中になって追い掛けていた。


捕まえる網も持たずに、
走ったくらいの速度では
追い付けもしないくせに、




トンボには
俺が夢中になるだけの
なにかの
魅力を感じていたんだ。


四枚の透明な翼を広げて
ビュンビュンと
素早く縦横無尽に飛び回る
カッコいい飛び姿。
キラキラした
大きな二つの目玉。



あそこから
いったいあのトンボは
なにを見ているのだろう。
なにを感じているのだろう。





トンボには、
そこにはない
ナニかがあったんだ。


そこを飛んでいるトンボには
そこにはない
何かを持っている気がしてたんだ。


今の、この、
封じ込まれた不自由な景色を
やらなければならない
明日のしがらみを
区切られている
このつまらない時間を


どこかが違う新しい世界の中を
あのトンボ達が飛んでいる様で


あのトンボさえ捕まえれば、
そこから
どこか違う何かを
こんな俺に見せてくれる
気がしていたんだ。


あの大きな目は、
俺とは違う未来を見ていて
あの繊細で透明な羽根は
煩わしい時間を
越える力を持っていて
あのトンボは
俺をこの淀みの中から
救い出してくれるんだ。



網も籠も持たず、
トンボを追い掛けていた。


もちろん、
捕まえられるなんて
思ってなかったさ。


だって俺は、
その田舎の中で生まれ育った
ただのつまらない子供だったんだから。


追い掛けていれば、
そこから逃げ出せるなんて
そんなはずは、
なかったんだ。


追い掛けてさえいれば、
いつかは
捕まえられるなんて





今でも時々、
網も籠も持たずに
トンボを探して
辺りを見回すけれど
もう、
俺の周りには
あのトンボの姿は、
なくなってしまったんだ。