toshimichanの日記

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雪雲

愛人宅のマンションのベッドで

帰り支度を始め様としていたら、

西の空から巨大な雪雲の塊が

じわじわと迫って来るのが

ハッキリと見えた。

 


ダークグレーの不吉な奴らは、

やがてこの街、俺の頭上に

やって来るだろう。

 


不意に、

逃げ場のない不安感に襲われた。

 


思わず、

彼女の手を握り締めてしまった。

 


つい先程まで、

だらしない格好で

イキ疲れ果てていた彼女は、

俺の手を握り返すと

潤んだ視線を絡ませながら

起き上がり、

サイドテーブルの

フルボディーに手を伸ばす。

 


ねっとりとした唇の隙間から

注ぎ込まれるワインのほろ苦さが、

雪雲の不安と重なり

俺の逃げ場は完全に

なくなってしまった。

 


真っ赤な血の色をしたワインが、

再びグラスに注がれた時、

彼女の欲望も

再び俺へと注がれていた。

 


今日はもう、

帰しては貰えないと

降りだした粉雪を眺めながら

覚悟を決めた。