俺達は親友じゃなかった。
他人を傷付ける事を極端に嫌って、柔らかく温かな人柄だった友人が久し振りに会った時には、粗暴で気遣いの出来ないやんちゃな奴に変わり果てていた事がある。
本人は、俺は何も変わっていない。と話しているのをどう受け止めたら良いのかに皆が戸惑って、その場の空気が苦く切なくなり、誰一人としてそこには触れられない哀しみを胸に抱いている事がひしひしと感じられていた。
その場に集った、いわゆる昔の仲間達は長い年月に色々な経験を積み上げ、それなりの成長を遂げた大人にはなってはいたものの、顔を合わせてしまえば、あの頃のあの時代を生きていた青臭さは甦らせてはいた筈だった。
少なくとも、そこに集まったその一人を除いては、誰もが懐かしさを感じているものだと思っていた。
年月がいくら過ぎようとも、学生時代を共に過ごしていた仲間とは、外見や雰囲気は変われども、その根本的なキャラや立ち位置には変わりは無かった。
やっぱりまだ独身で、あの頃に思っていた通りのチャラくて軽い奴は、気軽にバカにしても、当時の若さで言い返してくるし、子供の学歴自慢をしてる奴等は、お前の子供なら当たり前だよなと頭をこずいて笑い合える気安さが戻っている。
そんな中で、一際浮いてしまった、たった一人の予期せぬ変貌の為に、誰もが扱いに困っていた。
この十数人の集まりの中には、きっと当時彼に支えて貰ったり励まされたり、勇気付けられたりした奴が何人かはいたはずだった。
温厚で人懐っこく柔らかな人柄は、誰からも憎まれずに自然に溶け込んで、頼られていた人格者だった筈だった。
その為に、ここに集まった連中は久し振りに彼に会う事を少なからずは楽しみにしていた奴もいたと思う。
助けられた恩や支えて貰った記憶。
そこに居てくれた心強さや、荒んだ場を和ませてくれる気遣い。
ある意味では、この場の中心人物にもなり得る人格者だった。
荒々しく肩を叩かれ、お前はバカだったよな。と、悪態とも受け取れる物言いは彼のキャラにはそぐわない哀しさが見えていた。
誰もが目を見合わせて、その変貌振りに触れられずに戸惑っていた。
そう、その場では誰一人として彼を仲間として認められずに避けてしまっていた。
後日、ほぼ全員と交わしたLINEの話題に上がっていたのは、
誰もが彼の話しを聞けなかった悔しさだけが渦巻いていた。
そう彼は、福島県の海沿いの男だった。