コロナ事変 1
俺はここ一年足らずの期間、仮想世界に迷い込んでいるのかも知れない。
そんな錯覚を覚えてしまっている。
そう去年の今頃だった。
このコロナの影響で会社の業績が悪化の一途を辿って、保身的処置を取り始めた。
何よりも、収益をもたらさなくなった穀潰しの部署に成り下がった我が部署は、あっさりと解体されて、本社から追い出されてしまったのだ。
確かに、直接的な収益があった部署ではなかったが、顧客とのパイプ役として、それなりの営業力は持っていた部署だった筈なのに、地方巡業をなりわいとしていたメンテナンス業務は、緊急事態宣言とやらで身動きが取れなくなってしまっていた。
正に穀潰し。
本社でうだうだしていても、全く収益をもたらさない数十名のお荷物社員。
地方を走り回って、顧客の工場で工具を振り回しトラブルを解消するからこそ、社内でデカイ顔をしていられた荒くれ者達は、県を跨いでの移動が規制されてしまっては、牙も爪も、足さえももがれて瀕死の獣達に落ちぶれていた。
それを見逃さなかった、社内派閥の一派にけちょんけちょんに足下にされて、あっさりと解体されてしまった。
協力会社と言う名の下請け工事に出向される者。
いとも簡単に、解雇を言い渡される者。
地方工場に転勤を命じられる者。
本社の肩叩き部署に軟禁されて、自らの処遇を迫られる者。
散り散りバラバラに解体された上司や先輩、同僚や仲間達。
そんな極悪非道な部署の解体現場に於いて、俺の処遇は、格段の配慮がなされていた。
なんせ、夏草や邪魔者達の夢の跡。
個人的な遺恨が込められている人事異動の最中、色々な根回しと、わたくしの温厚で円満な御人柄とでも申しましょうか?
過去の行いによる徳の山積なのでしょうか?
会社より格別なご配慮を賜りまして、
自宅からさほど遠くない、地元の工場への異動と相成りました。
いやいや、同僚の皆様には、申し訳なく。
安泰で安穏なご配慮で御座いました。