toshimichanの日記

ブログの保管所

あゆみん リング

堅く握り締めた拳の中には、

飾り気のない

細いシルバーのリング。

 


ある日、なんの前触れもなく、

突然にポストに投げ込まれた

訃報を知らせる手紙の中に、

無造作に、

同封され送られて来た。

 


昨年○月○日に逝去されました。

失礼とは存じますが、

故人の意思に従い

同封させて頂きます。

 


指輪が凍り付くような、

無感情で余りにも儀礼的な

冷たい説明文が書かれていた。

 


差出人の名前には

全くの心当たりは無かったが

便箋の切れ端に小さく包まれた

リングを一目見ただけで

俺は泣き崩れるのを

堪えきれなかった。

 


何時でも、

何処で暮らしていても

俺の心の何処かで、

常に支えてくれていた。

温かな誇りを感じながら、

過ごした日々を思い返しては

励まされた。

 


笑顔も、話し声も、姿も、

拗ねる表情も、

艶やかな黒髪の香りも、

抱き締めた温もりも、

柔らかな胸も、

何もかも全てが、

昨日の出来事。

鮮やかな記憶が甦る。

 


そうだ、

お気に入りのシャンプーが

安売りしてたよ。

川沿いの桜の木の枝が風で

折れちゃったんだ。

茶店のマスターが

結婚するんだってさ。

 


細やかでありふれた

俺の日常を

二人で暮らしていたこの街を

教えてあげたかったな。

 


力なく震えながら

開いた手のひらで、

鈍く光を放つリングに

いつまでも俺は、

語り続けていた。