toshimichanの日記

ブログの保管所

そこにいた、あゆみん

仏壇に上げたお線香の灰が、

くるんと丸まりながら、

燃え繋いでいる。

それは仏様が喜んでいる

記しだと、

何処かで聞いた覚えがある。

 


遙々と遠い港街の外れまで

長い時間を掛けて

始めて訪れてみた。

あれから三年。

忘れる事も出来ず、

亡くなった事実からさえも

俺は目を背けていた。

 


何度も聞いていた彼女の故郷の

風景は、始めて訪れたにも

関わらず、

こんな薄情者の俺を懐かしさの

中に誘うのであった。

 


赤レンガを積み上げた倉庫の角を

曲がると、風景が一変して

目の前に穏やかな海が広がった。

潮風に背中を押されながら、

緩やかな坂道を登る。

確かに、彼女に何度か

聞かされていた想像通りの

風景に、彼女の子供の頃の姿が

見えていた。

 


港を見下ろす小高い山の上。

沖で停泊している船や

港の中で世話しなく動く船。

こんな美しい風景の中で

彼女は育って来たんだな。

なんで今更になって、

伸び伸びとした彼女の

笑顔を思い出していた。

 


じっとこちらを見詰めたままの

彼女の遺影に、数え切れない

想い出が廻り身動きが取れずに

ただ見詰め合うだけの時が

過ぎて行く。

遥か遠くからの船の霧笛が、

何故こんなにも懐かしいのだろう。

立ち上がる事を拒むかの様に

遺影の彼女が語り掛けてくる。

「ここが私の生まれ育った家なんだ。

話した通りに見晴らしが良くて、

素敵な住まいでしょ。

やっと来てくれたんだね。

何よ今頃になってから来るなんて、遅過ぎるんだから、

ここから、夏の花火や雪の港を二人で見て暮らしたかったな。」

 


真っ直ぐに立ち昇る、白く細いお線香の煙が揺らめき踊り出す。

それはまるで、おどけながら

家事をこなしていた彼女の

後ろ姿にも似て、細く華奢な

ラインを模しているようだった。