toshimichanの日記

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丑三つ時

午前2時。


寄り掛かっている背後の
ベッドから
規則正しく繰り返す寝息が
夜更けのしぃーんとした
微かな耳鳴りのような閑けさを
呑み込んで
心の奥底へと
直接送り込まれて来る

ふつふつとした
正体の知れない安堵感の中で
ゆっくりとした時間が流れている

ついさっきまで
絡み合い
掴んでいた滑らかな長い黒髪の
柔らかな感触が残っている指先で
ロックのグラスを傾けた

氷とグラスがぶつかり合う
心地よい硬い高音が
彼女の穏やかな寝息のリズムと
折り重なり合って
俺を満たしてくれる




華奢な指先を飾る
まるで夜空ような
藍よりも深い青に
金星のような光を放つ
星粒をあしらったネイルが
真っ白なシーツの波間に
浮かんでいる

部屋に帰って来た途端に
両手の甲を俺の目の前に
差し出して
ニコニコと嬉しそうに
「これ、綺麗でしょ。」と
自慢気に見せびらかしていた
ネイル

そう言えば
余りじっくりとは
見ていなかったなと
思い付き
ふと
差し伸べた手を
俺は躊躇して引っ込めた

そうだ
こんな
グラスを持っていた冷えた指で
触れてはいけないんだと
彼女の指先が
大切な宝物のように
思ったからだ




ほんの数分前には
あんなにも
遠慮せず思うがままに
欲望と情熱を
好き勝手に浴びせ掛け
掴み叩きねじ伏せて
絡んでいたはずなのに

事が終わり
あの
激痛を堪え忍んでいるかのような
苦悩に満ちた表情からは
想像が付かない
穏やかで安らかな
柔和な寝顔を
浮かべている彼女を見ていると
鳥肌が立ち
怖いくらいの
幸福感に襲われている

寝顔が可愛いくて
胸が締め付けられるほどの
愛おしさが込み上げて来る

愛している

この女がいい
彼女でなければダメなんだ
俺は彼女なしでは
もう
生きて行けない
そんな胸騒ぎに似た
不安さえ覚えてしまう



ずっしりとした疲労感が
腰の辺りに重くのし掛かり
グラスを持つ腕が少し震える

未だにジンジンと熱っぽい
萎えた一物に残されている
彼女の情熱の痕跡



夢でも視ているのだろうか
広角を緩ませ
少し微笑んでいるようにも見える
可愛いこの寝顔を
このままずっと
こうやって眺めながら
年を重ねて行かれたらいいなと
柄にもなく願った
丑三つ時だった