toshimichanの日記

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続、リング

まんじりともせずに、
色のない、
音もない空虚の中に
ぽつぅ~んと独人。


届けられた手紙の内容に
心を葬られたままで
己れの所在を喪っていた。


「まさか」
受け止められるはずのない内容を
否定するでもなく
かと言って
認められもしなかった。


遠い昔の記憶が
鮮やかな色彩で
昨日のできごとの様に甦り
その笑い声や
匂いまでもが
現実化して触れて来る。


あんな事をしたっけ
そんな事もしたんだよな。

そう言えば、
そんな約束もしてたんだよな。

今度、
いつか、



果たせなかった
「またね。」が
突然に胸をえぐる。



活字ではない、
達筆な筆文字で書かれた
流れる様な彼女の名前が
そのまま
戒名の様に見えてしまって
無意識に指先でなぞってた。



どんな風に
この世を去ったのだろう?
そうだ、
ちょっと電話でもしてみようか。




身の丈を越える
向日葵に隠れて
俺の名を呼ぶ君の声が、
それはまるで
向日葵の声
そっくりそのまま
君の様だと
キラキラと
余りにも眩しくて
「来年もまた来ようね」って、
俺は
その向日葵と約束をしてたんだ。



ねぇ知ってる?
この公園で
デートするカップルは、
結ばれないんだよ。
向かい合って座った
手漕ぎボートで
スカートの中を
見せ付けながらの上目遣いが
迷信なんだと
何処か
勝ち誇っている様に
俺には見えていたんだ。


汗だくの俺に
わざわざ抱き着いて来ては
「何故か安らげるんだよね、
この匂いって」
肩口に顔を埋めて離れなかった
暑苦しくて煩わしい可愛いさが
本当は嬉しかった。


膝の上に股がって
一周
抱き合ってキスをしてた
観覧車。


信号待ちの停車時間
より一層力を込めて抱き着いて
ヘルメットをコツコツとぶつけては
体を揺すって暴れてた。


さくらんぼの茎が
口の中で結べるんだよ。


用もないに、
無意味に俺の名前を呼んでは、
「なんでもないよ。」と
ふざけてた。


なんでもかんでも
小指を絡ませては、
「指切りしたよ。」って
約束をさせられていたんだ。

いつからか、
その手の薬指にはめられていた
露店商で買った
燻んだ色の安物の指輪


こんな物は
他人にしてみれば
ゴミの価値すらありはしない
小汚ない金属片なのに、
わざわざ
俺に送り返す程の価値も
意味すらありはしないのに

こんな物が
ありとあらゆる
青春の片鱗を呼び起こし

悔やんでも悔やみ切れない
取り返しの着かない記憶を
蒸し返させては、

まんじりともせずに、
色のない、
音もない空虚の中に
ぽつぅ~んと俺を
独人にさせていた。