toshimichanの日記

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水墨画?

聞こえて来る筈の音が

部屋の中まで聞こえて来ない

不自然な昼下がりだった。

静寂を装った雪の音色に包まれている。

ホテルの目の前を走る車は、

皆、ゆっくりと慎重に流れていた。

 


まるで真綿を敷き詰めた様な

暖かそうな景色には、

誰の足跡も残せない真っ白な拒絶と

全てを包み込んで自由を許さない

厳しさが見えていた。

 


窓の外に広がる水墨画の様な

色彩を失なった色調の景色。

それを静かに佇み眺めている彼女は、

その景色を否定するかの様な

目に鮮やかな真っ赤な血の色をした

ショーツだけの姿で

窓硝子越しに

ワイングラス片手に微笑んでいる。

 


いったい彼女は、

あれ程までに鮮烈な赤で下腹部を覆って、

一体、何と勝負をしようとしているのか

 


均整の取れた

柔らかなボディーライン

見馴れている筈の

慣れ親しんだ俺の彼女。

雪の白さとは全く違った質感の

白い肌が雪の光に照らされて、

何時もより艶かしさを放っている。

 


もう何年もの年月を

この彼女とこんな風に過ごして来た。

今更、

特に珍しくもない筈の彼女の裸体なのに

こうやって恥ずかしげもなく

改めて目の前に晒されてしまうと

その曲線美の素晴らしさに

圧倒されてしまう。

 


どこぞの神様が、

いったい何の為に、

こんなたおやかな曲線美を

造形したのだろうか?

何度も何度もこの腕に抱いて

飽きる程好き勝手に触れて来たのに、

それでも尚

こうして、改めて

離れて眺めて見ていると

モノクロの雪景色を背景にした

そのプロポーションには

抱き慣れているせいだからなのか

エロティシズムなどは

全く感じないが、

何度見ても、どれだけ見ていても

決して見飽きる事がない

芸術的な曲線美を感じてしまう。

なんて均整の取れた

見事な女の形をしているのだろうと、

見惚れてしまうのだ。

 


雪国のホテルでの昼下り

こんな時間まで

取り残されてしまった二人には

もう身体を重ねる以外には

他にするべき事は

何も残されてはいなかった。

 


夕べは夜更けまで、

この旅の後の予定が定まっていないと

言う理由で、

次に会える機会が何時になるのかが

分からない不安が彼女の

激しさを煽ってしまった様だった。

 


いつも以上に、

形には出来ない不確かな愛とやらを

俺に求めて、飽きる事なく、

あの見事な身体を無抵抗に投げ出され

その証を求め続けられた。

 


そして目覚めた昼過ぎに

この雪景色に見舞われた。

 


眼下の駐車場に置かれた車は、

その車体をすっかりと隠して

身動きの取れなくなった二人を

このホテルの一室に

足留めするには十分な言い訳を

作ってくれていた。

 


まだ暫くの間俺は、

この麗しい女神と共に

この雪景色を堪能していられる事に

妙な嬉しさを感じてしまうのだった。

 


「雪国なんだから、

こんな休日があるのは仕方ないよね。

今日は一日中、ここに居ようね。」

彼女に取って、

この思いがけないアクシデントは

今日一日が彼女の時間になった事が

嬉しかったのだろう。

 


ベッドに腰掛けて、

大きな額縁に飾られた水墨画の前に立つ、

見事な曲線美を眺めていた。

くっきりと目に鮮やかな赤だけが

不自然でもあり

唯一の現実味でもあるかのような

コントラストで浮き彫りにされている。

なんて贅沢な風景なんだろう。

時間に追われる事なく

この美しい絵画の中に閉じ込められて

愛おしい女神をゆったりと眺めて

いられるなんて。

しかも、この曲線の造形美に俺は

日がな一日、なんの遠慮も躊躇いもなく

自由に触れて、扱う事が出来るなんて、

正に至福の時を約束された気分だった。

 


くびれたウェストラインまで伸びた

長い黒髪は、ざっくりと束ねられ、

背筋に添って艶やかに流れている。

その細やかな黒の流れを

受け止めるかの様に

まん丸の球体のヒップが

堰止めている。

 


艶を放つ黒い流れを受け止める

真っ赤な双球のまろやかな曲線が

何故か季節外れの秋めいた景色にも見えて

アンバランスとも思えるのだが、

それを不自然には感じさせないのは、

この彼女の持つ

明るさの性なのかも知れない。

 


にこにこと屈託のない笑顔を浮かべ

空になったワイングラスを振りながら

軽いステップを踏み

前髪を楽しげに眉毛の上で遊ばせて

歩み寄って来る姿は実に楽しげで、

眺めている俺も、

ついつい微笑んでしまう。

 


その、どことなく無邪気な雰囲気を

漂わせている笑顔には

およそ似つかわしくない

いかにも女を主張するかの様な

柔らかく重たげな乳房が

ステップに合わせてポヨンポヨンと弾み

俺の視線を奪い取ってしまう。

 


ここからが乳房。

ここ迄が脇の下、脇腹と、

境界をはっきりと示すラインを

境目にして丸く迫り出して来る

迫力のある膨らみ。

蹴り出す脚のステップに合わせて

揺れ動く破壊力のある重量感。

迫り来るその威圧的な魅力に

思わず手が出てしまう。

 


掌に有り余る膨らみが、

開いた指の間から逃げ場をなくして

盛り上がる。

いとも簡単に沈み込んで行く指先に

感じる無抵抗な肉質の柔軟さは

彼女そのものの様に感じる。

ここにもまた、

季節外れの、

春らしい暖かな温もりを掌に感じて

窓の景色とは別世界の

妙にほんわかとした違和感が味わえる。

 

 

 

俺のつむじに顎が乗せられ、

両頬を包み込む春の柔らかな暖かさに

ここが俺の一番好きな居場所なのだと、

安堵感に埋もれてしまう。

 


こんな真冬の

逃げ場を失ったホテルの一室で

こんなにも暖かい至福の一時を

感じながら、俺はまた、

この胸の内にこ沸き上がって来る

不確かな愛とやらを表現する為に

この美術工芸品に情熱を捧げ、

自由に愛でる事を許されてしまった。

 


窓の外には、

モノトーンに彩られた水墨画が広がり、

その一画を

スラリと伸びた脚線美が突き刺さる。

その足の指先には、

鮮血を思わせる様な真っ赤なショーツ

色彩を否定するかの様に掲げられ、

形なき愛に濡らされていた。