toshimichanの日記

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いってらっしゃい。

「いってらっしゃい。」

軽く唇を合わせ、
肩に手を置いて、
彼女のサラリとした黒髪を
手の甲に感じて。

そう、
いつもの朝の出勤時の様に
このドアを閉じて。


たった今、
彼女が閉じたドアを見詰め
俺はもう一度、
何かを確かめる様に、
小声で
「いってらっしゃい。」と
呟いた。


長いブーツや華奢なパンプスが
なくなった
殺風景な玄関の床には
「彼女を追い掛けろ」と
言わんばかりの
お気に入りのスニーカーが
玄関のど真ん中で待ち構えて
俺を急き立てていやがる。

お前を履いたとて、
この時間は止められやしないし、
ここまでの時間を
やり直す事などできやしないんだ。

だからこそ、
「さようなら。」の別れでもなく、
「ありがとう。」の感謝でもなく、
「ごめんなさい。」の謝罪でもない、
ただの毎日を積み重ねて来た
「いってらっしゃい。」を
手向けの言葉として
二人で選んだんだ。


いつかまた、
二人が偶然にも何処かで、
もしも出逢う事が出来たならば、

そこで、
「お帰りなさい。」と
言い合える関係性でいたいんだと。

そんな結論にしか
たどり着けなかったから、