toshimichanの日記

ブログの保管所

斬文 4

貴女のため息が
いつしか銀色の雲になり、
この澄んだ夜空の
あの綺麗な月を滲ませる。


うつ向いて前髪に隠された瞳が、
膝の上で絡めた二人の指先を見てる。


その横顔に月明かりが
翳り出すのが辛かった。


さっきまで、
あんなに綺麗だった下弦の月
隠せるほどの重いため息。
鈍色のため息。



ベた凪ぎの海が
ゆっくりと静かに
潮騒を奏でる夜の砂浜で
二人の結びを
解かなければならなない分けを
しどろもどろに話してた。



「このままじゃ、
ダメなのかな?」


結んだ拳に
溢す様に吐き出された言葉。


その刹那に答えられずに
戸惑う弱虫の
逃げようとする指を
強く強く握って放さない。



「直ぐじゃないよね。
急ぐ事ないもんね。」

真っ直ぐに向けられた
視線が外せずに



「そうだね。」

と、声を詰まらせた。

掴んだ手を胸に誘い
強く押さえ付ける手の温もりと
柔らかい乳房の温もりの
挟み撃ちに心が揺らぐ。


「貴方だけの女
貴方を好きな女
貴方が必要な女
貴方じゃなきゃ
ダメな女にしちゃったくせに。」



「ほら、月が綺麗だよ。」



真っ直ぐな視線から
逃れる為に、
咄嗟に口から出た言葉。


しかし、
見上げた夜空には
もう既に月はなかった。


押さえ着けられた手のひらには
触り馴染んだ膨らみ。
握りしめれば
いつもの様に食い込む指先。


「これは、
間違いなく貴方の物なんだよ。」



一つ一つの鼓動が確実に
柔らかい温もりの下で
何時もより
大きく早く感じ取れていた。


確実に彼女は怯えていた。

切りつけた自分の刃が
弾かれて
己に返された瞬間。


力いっぱい握り締める
ふわふわの温もり。


深爪の指先が
易々と食い込んで行く。


頭に回された腕で
顔を引き寄せられて、
唇が顔の
所構わずに押し付けられる。



「絶対にイヤ!」



それは、
いったい誰の声だったのだろう。



執念の籠った固い決意が
その声色とは裏腹に
脳幹を震わせるのだった。