toshimichanの日記

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だって、バカだもん 3

俺は彼女と別れた。

その日を境に、一切の連絡を取らなくなってしまった。

 

 

 

その日の午後は、やけに夕陽が眩しくて田舎の寂れた駅舎の向こうには、果てしない畑が広がり、遥か遠くの山々の谷間に、まだ茜にも染まり始めていない太陽が、俺を嘲り笑うかの様にゆらゆらとくゆっていた。

「今まで、ありがとね。」

ありがとうの声が二人同時に口から解き放たれてハモっていた。

お互いが見つめ合い、笑い声を挙げお辞儀をする様に前屈みになっていた。

駅のホームで電車を待つ女子高生が振り向いて、笑い会っている俺達を怪訝な顔して見ていた。

彼女の明るいオレンジ色に近い黄色いワンピースは、このド田舎の町並みにはかなり浮いていて、それに寄り添っていた俺は、見事にこの町の大学生らしさ満載の廃れたスェットにサンダル履きで、都会と田舎のアンバランスが不協和音を奏でていたのたろう。

このアンバランスなカップルの笑い声が、かなり滑稽だったのだろうか、恐らく部活動の練習に隣の駅にある高校へと行くのであろう、制服姿の女子高生はフルートだかクラリネットだかのケースを抱えて、しっかりと俺達を眺めているのだった。

彼女との別れの印象的な瞬間に、偶然に居合わせたその女子高生は、この光景を奇跡的にも記憶に留めていた事は後の物語へと発展して行く事になります。

 

 

 

電車がスルスルとホームの端っこから滑り込んで来るのが見えていた。

 


俺の勉強部屋は母屋から20メートルくらい離れた物置小屋を改造した、独立個室。

そんな密室に籠って二人きりの勉強会を催して過ごした彼女。

夜の帰り道はバイクの後ろに乗せて、背中にピッタリと温もりを伝えながらしかみ着き、家まで送ってた。

何度、そんな時間を彼女と重ねたのだろうか。

家の前での「お休み」の笑顔が、滅茶苦茶に可愛いかった。

セックスで疲れ果てた瞳が色っぽかった。

始めて会ったのは、学校帰りの駅前で待ち伏せをされて、名前を教えて欲しいと、半ば強引に脅されているかの様に迫られた。

苺が好きで、ニンニクが好きで、ネコが好き。

犬な苦手で、林檎の歯触りが苦手。

映画やテレビドラマでマジ泣きするし、歌声が透明で心に直接訴えてくる切なさを持っている。

 


彼女との数え切れない思い出が、電車の動きを止めているかの様に脳裏を横切っていた。

彼女に出逢えたからこそ、今の俺は、このホームに大学生として立っている。

この可愛い彼女が、ここに居る俺を作ってくれたのだ。

彼女がこの電車に乗り、去って行ってしまえば、脳裏の思い出は本当に思い出になり、二人の物語は終わりを迎えてしまう。

言葉が出て来なかった。

要らなかった。

見つめ合ったまま無言で行動していた。

 


やがて、二人の間を遮るドアが隔てて、無機質なベルが鳴り響いた。

真っ白な糸が心の中で、ブチッと音を立てて引きちぎられた。

軽く手の平を俺に向けて小さく振りながら、ゆっくりと視界から流れ出す彼女。

 


悲しみは、この決断は間違えではないのだと胸の奥に何度も何度も言い聞かせなければ、俺を押し潰そうとしていた。

痛みは、これで彼女が自由になれて、もっと素敵な男に出会えるんだ、新しい出逢いに向かえれるんだと言い聞かせなければ、とてもその場には立っていられない程の激痛になっていた。

 

 

 

その彼女との出会いと再会の話しは、(とあるおばさん)に書いた記憶があるが、

だって俺って、バカなので正解な題名は定かではない。