toshimichanの日記

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夜虹

半分明るい夜空に、
煌々と耀く満月が
酷く淡い虹の半円を
浮かび上がらせていた。

風のない浜辺で、
ありのままの恋心を
素直に真っ直ぐに
投げ付けて来る女。


告白と呼ぶのには、
余りにも唐突で、
前触れがなく、
いきなりに赤裸々だった。


息の掛かる様な
距離まで近付いて、
前後の時系列も
バラバラに
ありのままの心の内を
吐き散らしながら
なにやら必死に
平静を装って、

それはまるで
独り言の様に
自身の内側を語り出していた。



今、そこに触れたら
応えは見付けられずに
これを始めた女にすら
行方の見えない罠に
溶かされてしまう。

俺は防ぐベールも持たずに
ただ座っている場所の
砂を掴んだ。

消えたのか、
見失ったのか
虹を探す視線の先には
俺を真っ直ぐに見詰める
彼女の真剣な眼差しが
突き刺さる。

、、、、いい?
かすれた声が
宙を舞い
俺の返答を待たずに
突然の唇が降り注ぐ


さざ波の音しか
聞こえやしない。

塞がれた唇に
髪が絡まる。

躊躇う右手がさ迷い
背中を抱けずに、
だけど、
拒む事もせずに、
空を掴む不格好に固まる。



雨の匂いがする。
潮風が湿って来た。


ごめんなさい。


謝る位ならするなよ。

多分、その内に
この辺りにも

雨が降り出すのかも知れない。

そんな事を考えて
雨を待っていた。

雨さえ降り出せば、
この場の熱は
冷めるはずだった。

俺の戸惑いも
彼女の企みも。
なにもかもが、

語る夢を潮騒
掻き消されながら、
何故か手を握られ
星の消えた暗い夜空を
仰いでる。

ちょっと気軽に
接し過ぎたのかな?
気を許し過ぎたかな?
応えではない話しに
盛り上り過ぎてた自分に
反省し出す女。


俺は俺で、
残酷なのかな?
良いなって思う所は
ついつい誉めてしまっていたし、
可愛いと思えば、
言葉に出して伝えていた。

ただ好きなのと、
女として好きなのは、
全く別ものなんだ。

虹に罪などありはしない。

月灯りに照らされた
雨粒の煌めきが
寄せ集まっただけの
一時の光にしか過ぎないんだ。

淡く綺麗に掛かる虹は
美しい。

髪に艶と香りを纏い
シャドーもルージュも
コーディネートしていれば
綺麗。

上目遣いに見つめられれば
可愛い。

胸のボタンが
はち切れそうならば、
心配もするし
広い廊下でぶつかって
しまえば謝りもする。

それは全て
仕掛けられた罠だったのかな?



まだ、
生暖かいこの砂は
もしかして
この女の手の平の上なのだろうか。

不器用な語り口調も
いきなりのキスも
この女の書き上げた
演出だったんだろうか?

いやいや、
流石に夜の虹までは
用意など出来なかったと
信じるしかなかった。