toshimichanの日記

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影武者

俺はまだ彼女を斬れずにいる。
最初の一撃からは、
もう、
一年以上は経ってしまっている。

こんなにも長い
太刀合いになるなんて
思ってもいなかった。

立ち眩みがして来て、
足元も危うくなっている。

息切れがして、
気合いが入らない。

やっぱり若さには
敵わないのか。

弱気が視界の隅っこに、
顔を出し始めてる。

手にした刃も、
何度目かの打ち込みを
受け止められた時から、
ぼろぼろと刃零れを
おこして切れ味は
すっかりと落ちているはず。

面の網格子越しに見つめ合う
瞳の眼力に足がすくむ。

大上段に構えたままで
微動だに出来なくなって
しまってる。

このままでは、
俺の敗北は見えている。



「こんな事、もう止めにしないか」
広い寝室の中央に、
頑丈な柱で組み上げられた天蓋が
施されたデカいベッド。

だしなく項垂れている彼女を
抱き抱えて、
無造作に床に転がし下ろす。

この女特有の甘い体臭が鼻を擽る。

乾いた汗で長い黒髪が
顔にへばり着いていて表情が
見えやしなかったのだが、
恐らくは薄笑いでも
浮かべていたに違いない。

力の抜け切った女の体は
抱える場所に寄っては、
体液でぬる着いているので
滑ってしまう。

俺はしっかりとお姫様だっこをして、
床に直置きをした。

分厚く、矢鱈にデカいブランケットと
タオルケットは
大量の体液を吸い込んで
無茶苦茶に重く、
一枚一枚を丸めるだけでも
そこそこの体力を要するのだ。

この女は、
よくもこれだけの水分を
排泄するものだなと、
改めて圧倒されてしまう。

タオルケットもブランケットも、
決して安い品物ではない。

しかし、
俺と共に過ごす夜に用意される物は
常に使い捨てである。

有り余る財力を持つ彼女に取っては、
まるでティッシュペーパーの一枚にすら
感じはしないのだろう。

「何が不満なの?
後片付けが嫌なのかな?
だったら、そのままで良いよ。
後で片付けを頼むからね。
隣の部屋で、
ちょっとイチャイチャしよ。」

床の冷たさを味わう様に
頬をくっつけたまま、
指先だけを左右に振って話している。

「早く片付けないと、
部屋の中に匂いが籠って
匂い移りしちゃうじゃん。
こんな惨状なんか
恥ずかしくて他人になんか
見せられないよ。」

「だったら、、、」

床に手を付いて
身体を起き上がらせ様としているのだが、
使い果たした体力は
まだ回復していなかったのだろう。

直ぐにまたズルズルと
寝崩れてしまうのだった。

「とりあえず、なんか飲みなよ。
これだけ噴いたんだから
脱水症状だよね?」

「出したから疲れてるんじゃないもん」

だらしなく脚を開いたままで、
床に大の字になり、
見事な女体を晒している。

「これ、もう、
終わりにしようと思うんだけど」

小さなクロワッサンが
向かいあった様な、
腫れぼったく
真っ赤に
捲れ上がってしまっている部分が
痛々しく俺に向けられている。

「こんな身体に仕上げておいて、
もうしないなんて酷い事を言わないで、
お願いだから。
私はこの一夜を
どれだけ心待ちにして、
貴方に壊されるのを
待ち望んでいるのかを
分かって欲しいのね。
私ね、毎回毎回、
このまま死ねたらいいなって
思いながら貴方の気持ちを
受け止めてるんだよ。
貴方の愛撫で殺されたいんだよ。
分かるかな?
本当は解ってるんだよね、貴方は。
愛してるなんてそんな、
ちっぽけな感情じゃなくて、
心の全てと身体の全てが
貴方だけに染まってる。」

認めざるを得なかった。

演技では成し得ない極限の無意識下で、
泣き喚きなから。

ふぅ~っと、
消え入る様に意識を
失って行くさ中で口にする。

どんな場面でも、
感極まった彼女が口にする、
その名前が俺の名だと言う事実は
胸を掻き立てて
愛おしさをあふれさせている。

力なく真横一文字に振られた刀は、
ざっくりと、
見事に俺の腹を切り裂き、
己の気持ちを認めざるを得なかった。

大上段に構えた腹から
噴き出す血飛沫は、
彼女を真っ赤に染めあげ、
俺の屍は、
その見事な女体に重なる様に
預けるしかなかった。