腕に刺さっている針から伸びるチューブを辿れば、そこには、「透明になる薬」と書かれた点滴が吊り下げられていた。あぁそう言えば、確かに針の刺してある左腕だけが心なしか薄くなって来ている様に見える。「そうか、私はこうして段々と影を薄くしながら透…
そう言えば、いつの間にかセミの鳴き声が聞こえなくなっている。 晴天の真っ昼間だと言うのに日向を歩いていても、辛い暑さは感じなくなっている。 そよと吹く柔らかな風の中に金木犀の囁き掛ける様な優しい甘い薫りが運ばれてくる。 「今年の夏も、やっぱり…
俺はその瞬間だけ耳を塞いでいたんだ。 読唇術なんて高等な技などの心得など俺は持ち合わせていやしない。 それなのに、はっきりとした決意の籠った君の声が鮮明に直接俺の中に届けられてしまったんだ。 その言葉を聞きたくはなくて、その言葉を発する君の唇…
止めどなく溢れ出す、熱く切ない感情を俺はいったいどんな風に君に伝えたらいいのだろうか。この耐え切れない、心を震わせる朱く熱い気持ち言葉などにできやしない。口から出せるどんな言葉を駆使しても、全てが嘘になってしまう。これを言い露せる表現なん…
あれ?何でだろう。刈り払われた夏草がまだ衰えを知らない強い陽射しに照らされてむっとする青臭い草いきれを放っている。何でだろう、腰掛けた俺をふわりと包み込み妙な郷愁を誘い出す。南風が運んで来るどこか遠い遠い彼方から耳を撫でる様に聞こえてくる…
酔った君が大好きだった。特に泥酔してどエロ全開の淫らな君が凄く愛おしかったんだ。普段の二人っ切りの時間には健康的なエロっぽさを見せてくれてはいるけれど本当の君は心の奥底に秘めている真の欲情は表には出さないで隠しているよね。日頃は恥ずかしが…
「いってらっしゃい。」 軽く唇を合わせ、肩に手を置いて、彼女のサラリとした黒髪を手の甲に感じて。 そう、いつもの朝の出勤時の様にこのドアを閉じて。たった今、彼女が閉じたドアを見詰め俺はもう一度、何かを確かめる様に、小声で「いってらっしゃい。…
スランプと呼ぶには長すぎる月日が経過してしまった。こんな筈ではなかったと、悔やみもがいていた日々も遠い記憶として置き去りにしてしまっている。まだ最悪ではないと、自分に言い聞かせ、必死に己を押し並べさせている。とあるスーパーのエレベーターの…
元町の商店街を手を繋いで歩いていたら、ふいに、繋いでいる手をぎゅっと握り締めて、彼女が僕を見詰めて言ったんだ。「シュークリームの様な幸せ。」 突然に何を語り出したのかと思いきや、二人で歩いている、その直ぐ横には、お洒落なカフェのウィンドウが…
俺はいったい何時頃からこのみっともない仮面を被ってしまっていたのだろうか。 俺は何処を隠して、何を表面に露(だ)してここに居るのだろう。 己れの本性を隠してただひたすら綺麗事やウソを書き並べて、本心の汚さをひた隠しにして良い人を印象着けようと…
まだ13年くらいしか経っていないのかな?我が家には二匹の猫がいる。息子がまだ小学校の低学年、娘は中学生だった頃に、動物病院の里親の会に参加して貰って来た猫である。 奴らは、産まれてから3~4ヶ月経っていたらしく、狭いケージの中で兄弟6匹で元…
小学生の頃にスカートめくりと言う遊び?が流行っていた。 学校にスカートを履いて来た女子のスカートを捲り、パンツを見ると言う実に単純で愚劣な遊びだった。 友達同士でさえあだ名で呼んではいけないと言う現代では、そんなスカートを捲るなどと言うハレ…
幼い頃の俺は、 視界を横切るトンボの勇姿に 心を弾ませ 夢中になって追い掛けていた。 捕まえる網も持たずに、 走ったくらいの速度では 追い付けもしないくせに、 トンボには 俺が夢中になるだけの なにかの 魅力を感じていたんだ。 四枚の透明な翼を広げて…
俺の両肩を床に押し付ける様に、彼女の両腕が押さえ込んでいた。 上で跨がっている彼女の中にいる俺は、かれこれ10分前に一度果ててしまっていたんだ。 西側のビルとビルの間に、未だ衰えを見せない太陽がギラギラとした暑い陽射しを投げ掛け、彼女の長い…
マンションの入り口までは、色々な物事を考えていた様な気もしていたし、或いは、これから何をするのか、俺はどうして拉致られているのか等は全く何一つ考えずにすたすたと引っ張られて来てしまった様な気もしていた。 入り口の前に到着してみたら、腰を後ろ…
居間の方から娘と家内のやかましい話し声が聞こえている。 居間と俺のいる部屋の間には、4畳半の寝室を隔てているのに、二人の笑い声はきゃっきゃきゃっきゃと俺の耳にまで届いていた。 ボンヤリとなんだか幸せなんだなぁとしみじみと思いながら、 夜間に録…
他人の怒りや感情の高ぶりを感じ取れない。 他人が怒っている事に対して自分に向けられている感情や危機感を読み取ろうとしない。 学校内で上級生を敬わなかったり、部活の先輩を見習おうとしない。 会社の先輩や上司から仕事を教えて貰っている身の上なのに…
はっきり言って、めんどくさいです。 特に意味もなくストーリーもありません。 ふと思い出した過去の自分の記憶を繋ぎ合わせて、ただ長いだけの駄文にした自分史ですので、うかつに読んでしまうと不快に感じるかも知れませんが、責任は取れませんので宜しく…
こんな世の中(コロナ騒ぎ)になる前は、13日の午前中には親戚一同の集合が終えて、昼前にお坊さんが訪れて来てくれて、仏壇の前でお経を上げて貰いながら全員が鎮座してお線香を上げて、 その後にみんなで昼食を食べながら御歓談。 お坊さんは食事を終えた…
妊娠を経て出産をするってのは、女性の持っている本来の特権だよね。 あっ、それを成し得ない女性を差別や軽蔑してる積もりはないんだよ。 これはあくまでも一般論ではなくて、 馬鹿な奴が考えなしに書いている戯れ事だから、偏見野郎と罵って頂いても結構で…
道端に転がっている空き缶を蹴る様に、 俺は投げやりに「さよなら」と放った。 けたたましく カランカランとアスファルトの上を 飛び跳ねながら、 空き缶は 俺から遠ざかって行く筈だった。 なんの未練もなく、 大した思い出すら残さずに 去り際の一瞬に 幾…
24色のパステルで そろそろ 草影で鳴き出した 虫の音色を背景に 夏の夜空の 朧気な月を描こうと 思いたった。 やっと熱気が鎮まり 刺々しさが失せた 草間を抜ける涼風を 感じながら 開いた白紙に 感じるがままの色を 走らせていた。 「絶好に邪魔はしない…
貰原中央総合病院では今、第7波と呼ばれる流行り病に掛かった患者がわんさかと押し寄せて来ていた。 病床数8000を越えるマンモス総合病院と言えど、内科に割り振られた病床の殆んどは、この流行り病の患者に埋め尽くされてしまい、残りは僅かになってし…
たった今、俺は彼女から愛されているんだと、怖いくらいに感じてしまっている。 嬉しくて、爪先から頭の天辺にまで沸き立つ様な鳥肌が駆け上がって来るのを感じている。 俺はこの昂りをどの様に記憶に留めて置くべきなのだろうか。 どんな色彩でどんな香りを…
あの日も、こんな死にそうなくらいにドチャクソ暑い夏の休日だった。 寂れた漁村の海岸通りをかげろうに揺れる逃げ水を追い掛けながら、4人でふらふらと歩き続けてた。 こんな暑い日には海水浴がしたかったけど、時期的にまだ海開きはしていなくて、しかた…
ふわりと風を孕んだロングのフレアースカートの中に、じゅくじゅくとした発散し切れない滾る欲情を閉じ込めて、 君は、さもあらんと言わんばかりに颯爽と去って行った。 君を苛んでいた俺の唇の周りにはまだ、ねっとりとした確かな余韻と僅かな悔しさだけが…
ここにきて、突然ですがtwitterと呟きの一気載せの暴挙に出ます。 過去物も含んでいますので、長い、くどい、つまらない、意味が分からない、どゆー事?、止めてくれ。 等が御座いましょうが、私は聞く耳を持ちませんので悪しからず。 僕の顔の上を跨いで行…
指先の動きがしなやかで 髪の毛、一本一本の毛先にまで その女の美しさの意味が輝いていた。 吐息にあしらわれた言葉が ダイレクトに心をとろけさせ 何一つ抗えやしない。 麻痺と言うよりも 消失した理性は その女の前では 乳飲み子と化してしまう。 かと言…
君言う、「会いたい。」 って言葉ってさ、 して欲しい。って意味だよね。 君の言う、「寂しい。」 って言葉ってさ、 自慰だけじゃ 処理仕切れない疼きに 困ってる時だよね。 君の言う、「好き。」ってさ、 俺の事が好きって言ってるんじゃなくて 俺が見極め…
500ミリリットルのペットボトルの飲み口の細く撫で肩の付近ですら入らなくて、手こずりながら無理矢理に押し込もうと、先ほどから10分近くは努力をしていたんだ。 余り無理矢理に力を入れると、痛がったり、苦しんだりして上の方へと逃げてしまうし、喘…